7.5章 それはとても晴れた日で

 本をよく読む人にとっては意外かもしれないけど、この世界は目的地に向かって進まなかったりする。

 交わしたあらゆる言葉に意味がなかったりする。

 緻密な伏線なんて滅多に存在しなくて、僕たちはただ場当たり的にその瞬間を生きてたりする。

 そして、時折、なにかが間違って上手く噛み合って、物語が進んだりする。

 十年前に起きた僕がSF事件と呼ぶ事件の真相。

 それを求めるのが今回の物語だとしたら、そんなもの始まる前に終わってたんだ。

 それを今更、一つ一つ丁寧に言葉を積み上げて、噛み砕いて、彼女の物語にして。

 もしかしたら動くまでもう少しかかったかもしれない何かを、強引に早めてみたりしてさ。

 それで、結局僕はなにをしたかったのか?

 この、彼女の物語の脇役として、もしくは狂言回しとして。

 いや、狂言回しなんて、僕はそんな大層な役割じゃないんだけどね。

 結局は僕なんかいなくても自己完結するはずの物語なんだ。

 僕たちの人生って割とそういうところがある。

 問題に区切りを付けるのはいつだって自分だからね。

 どんなに悩んだって、アドバイス貰ったって、励まして貰ったって、結局、自分の気持ちを変えられるのは自分だけだし。

 この話は僕が関与しなくても、いずれ彼女自身の手で自己完結する話だったんだ。

 えっと、なにを話してたっけ?

 元々がふわふわした話なのに、脱線すると霧散しちゃいそうだ。

 そうそう、僕がなにをしたかったのかって話だったね。

 別に大した事じゃないんだ。

 実を言うと僕はずっと宿題を忘れててね。

 いや、正確に言うと某アニメソングみたいに忘れてたわけじゃなくて、気付いたわけでもなくて、その宿題を終わらせることができる時を待ってたんだと思う。

 これも、言ってしまえば僕が自己完結できる話なんだけどね。

 ごめん、少し間違えたみたいだ。

 僕は宿題を終わらせる時を待ってなんかいなかった。

 できるなら、この宿題は死ぬまで抱えて生きたかったんだ。

 でもさ、ほら、十年経って、なんか丁度いいタイミングで、なにかが間違ったみたいに上手く噛み合ってさ、物語が動き出しちゃったからね、僕はようやく宿題を終わらせる気分になったんだと思う。

 あの夏、あの日、とても晴れた日だった。

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