猫
都築 或
第1話
猫がいた。
私は日が落ち始めて暗くなった道を歩いていた。
帰宅のためか車通りが多く、ガードレール越しに音を響かせ私の横を通り過ぎていく。
私の進行方向にいる猫は、車道を挟んだ向こう側の歩道を見つめるようにじっとしている。この交通量では道を渡ることは難しいだろう。
私はそんなことを考えながら歩いていく。猫との距離が次第に縮まっていく。
猫との距離がさらに近づき、この薄暗がりの中で視力の悪い私が猫をはっきりと見えるぐらいになった時だろうか。
猫が突然思い立ったように立ち上がって、ガードレールをくぐり車道へ走り出した。
私は目をそらしてしまいたくなる気持ちに襲われる。
だがしかし私の視線は猫に吸い込まれたように釘づけになっていた。
接触音。猫は通りがかった軽自動車の前面に接触し少し浮いたのち直進する車の下を転がるようにして通り抜けた。
猫はすぐに立ち上がり、向こう側へ行こうと足を激しく回すが足が折れてしまってうまく地面を蹴ることが出来ないためか、爪がコンクリートを引っ掻くカリカリという音が聞こえるばかりでほとんど進まない。
そうしているうちに後続の車がやってきてまたしても猫と接触する。
そんな風に二、三台にはねられたところで猫はようやく向こう側にたどり着いた。
もう力尽きてしまいそうなのかぐったりと丸まっている。その近くには血だまりが見えた。
可哀想だなと思った。
向こう側へ行って手当をしてやるべきかと考えるがそれとは裏腹に私の足は目的地へと進む。
衝撃的だったせいか、自分の動悸が感じられるようだった。
とりあえず誰かに会ったらこのことを話そうと考えた。
なんと話せばいいのだろう。
可哀想、だろうか。びっくりした、だろうか。
……何のために話すのだろう。
自分の口元に手を当てて考えてみる。
私はそこでようやく自分がわらっていたことに気が付いた。
猫 都築 或 @Aru_Tsuzuki
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