黒騎士が愛でるシンデレラな彼女

吉川はるひ

第1話

早瀬桃々、人生に不満なんてないと素直に言えない家庭事情がある。

学費はバイトで稼ぎ、お給料が多かった月は小遣いが出来て嬉しいが、生活費の一部に消えるのがオチ。

母は若くして女性特有の病気、子宮頸がんで亡くなったため、私には父だけ。父は公務員だが交通事故で足が悪くなり事務職、お酒が好きで私を可愛い可愛いと過保護だが父には多重ローンがあり返済優先での生活だ。私は私で頑張れば済むとして、お弁当屋でバイト。

西蔵高校一年、冬休みが明けてすぐ私は男子に呼び出され行くと体育館裏に3人の男子が待っていた。その3人のうちの一人はイケメンで人気のある男子だ。


「 私に用?」

「 俺達、3人共早瀬さんが好きで誰も譲れないから選んで貰おうと思って 」

「 そうそう、3人のうち誰がいいかって 」

「 シンデレラに選ばれたら男として幸せになるって噂だしな 」


噂……?


「 早瀬さん、俺達本気で好きだから、付き合ってください!」


3人が私を?本気で?少し考えればわかる、ううん、考えなくてもわかる。これはおかしいと。

本気で好きなら私をシンデレラと言わない、私が3人のうち誰か一人を選んだら幸せになるなんて迷信にも都市伝説にもならない。


「 私… ごめんなさい 」

「 え!いやいやいや、マジで?3人から選べるのにダメ?」

「 ごめんなさい 」

「 待ってよ~ 好きって言ってるのにダメ?俺らそこそこイケてると思うよ 」

「 3人の中で一人選ぶだけだよ、好みでいいからさ 」


どうあっても選んでもらいたいらしい3人の男子。

選らばないとダメなら仕方ないと好みではない3人のうち真ん中の男子を選んた。


「 あー!マジで~ やっぱ高藤?うわ、当たりかよ~ 」

「 当たり?」

「 あ、いや何でもない… 高藤ね、じゃ俺ら邪魔だから行くわ 」


3人のうちの一人、高藤和希を選んだ私。残り二人の男子は私と高藤君を残し行ってしまった。

そして高藤君の手が私の手を繋いで顔を近づけてきた。

それがわかって顔を思いきり背けると、顎を掴まれ向かされる。


「 さぁシンデレラ、今から楽しい事しようか 」


高藤君の言葉にゾクリと嫌な寒気が走った、すると突然空の雲行きが怪しく陰りだした。

小雨からすぐに雷雨に代わり、高藤君は私を離さないままいた。


「 早瀬桃々… 普段のあんたの噂はどうでもいい、西蔵高校で一番可愛いくて綺麗って言われるシンデレラのあんたと付き合うと運が上がるって噂。でも、誰にでも首を縦に振らないあんたが彼女になったら俺は王子ってわけ。西蔵高校で一番に、大学でも一番になる。だから俺を選んだ以上最後まで付き合ってもらうよ 」


強引な口説き文句にもならない、私を何だと思っているのか腹が立つ。ただの女の私にくそ力を発揮するなんて芸当出来ず体育館倉庫に押し込まれた。


「 何するの!」

「 物語のシンデレラはハッピーエンドだけど、早瀬さんはどうかな?俺は医者の息子だしある意味ハッピーエンドかもよ。公認の関係になってセフレでどう?」


セフレ?私が高藤君とセフレに?

それでシンデレラは幸せになるの?なれるの?

間違ってる―――


「 やっ、イヤ!」

「 処女だから怖い?大丈夫、シンデレラは王子と結ばれる運命なんだから 」


や、だ…… こんなのおとぎ話にない。

どうして私なの?

神様は残酷すぎるよ!!


「 私を好きじゃないのに好きって言うな!」


涙で滲む瞳をぐっと閉じ叫んだ。その時、雷鳴が怒り狂ったように響いた。


「 うわぁ!!」

「 きゃあっ… 」


ふわふわふわり、まるで空中を飛んでいるかのような感覚を体が感じた。

しばらくして気がつくと森にある建物の中、真っ黒で大きなベッドに寝かされていた。


ここは… 何?どこ?


「 ぁ… あ、……」


声が出ない!?どうして―――


不意に窓の側にいる誰かに気づいて身を固くした。

怖い、その言葉に当てはまらないほど綺麗な男性がいた。

漆黒の装束、まるで騎士のように見える。

何も言わず気がついた私の側にゆっくりと来て座り、見つめる。


喉を指でなぞり、唇へ指を這わせる。


「 ジゼルだ、俺を受け入れるなら名を呼べ 」


何を言ってるんだと、ただただ困惑しかない私は見つめるだけで視線をそらせずいた。


「 呼べ、ジゼルと 」


呼んであなたを受け入れる事になって、私はどうなるの?

あなたは誰?ここはどこ?

学校にいたはずなのに、どうして… どうやって?


「 呼べ 」


ジゼル… あなたの名前はジゼル……

どうか、私を虐めないで――


「 ジゼル… っ 」


呼んで直ぐ様塞がれ奪われる唇。

息が止まるかと、冷たい唇の感触がすぐに熱くなった。


初めてのキス――

ジゼルと名乗る漆黒の騎士のような彼はいったい誰で何者?


唇に残る甘い余韻、目をゆっくりと開けると目前に目を閉じて私にキスしようとしている高藤君が映った。


「 い… イヤー!!」

「 おわっ… 」


私は拳にした手を高藤君へと力任せに思いっきりドカッと殴り当てた。見事だと自分でも思うほど手が痛くてたまらない。そのまま高藤君を見ないで倉庫から飛び出し足がもつれそうになっても走った。

そのまま教室へ行き息を切らした、吐きそうなほどだった。水筒のお茶を飲み、息を整えているとクラスで仲のいい玉井夕香がどうしたの?と心配顔で側にきた。


「 桃々、大丈夫?なんで走ってきたの?」

「 夕香… ねぇ私今、どこにいる?」

「 どこって、教室?何、どうしたの?」

「 教室… さっきは体育館倉庫にいたよね、なのになんで?どうやって… 夕香、私変だわ 」

「 うん、たぶん今変だと思う。ほんとに大丈夫?」

「 うん、ううん… 」


どっちなんだとやはり心配する夕香と一緒に帰る事に。その帰り道で私は夕香に高藤君の事を話した。そしてジゼルの話もしようとしたがあまりに信じがたい話だから話しても笑われそうでやめた。


「 高藤君さ、ちょっと鼻につくよね。イケメンなのは認めるけど実は裏の顔が危ないらしいの 」

「 裏の顔?」

「 可愛い女子はだいたい高藤君に処女捧げてるって噂、桃々はシンデレラってあだ名だから高嶺だと思われてるだろうし、高藤君には絶対彼女にしたい相手だったんだよ。私の彼氏は平凡で良かったよ。で、まさか高藤君としてないよね? 」

「 してないよ、殴って逃げたから 」

「 え!殴ったの!?やるじゃん、桃々最高!」


何が嬉しいのか笑いながら私を最高だと誉める夕香に私はため息つく。殴って逃げただけに高藤君があの後どうしたのか気になるが、私にはもっと気になる事がある。

あれは夢じゃないとの確信がある。

唇が、重なった唇があのキスを覚えているから。


ジゼル――― 彼の名前はジゼル。



その頃ジゼルは遠く離れた場所で桃々の思考を感じ取りその口には笑みがあった。


「 ジゼル、何が楽しいんだ?」

「 ゼヴ… 」

「 見つけたの?例の姫様 」

「 ああ、見つけた。名は桃々――― 」

「 ……変な名だな 」

「 構うなよ、俺のだから 」

「 構わないさ。それでジゼル、姫の側にいなくていいのか?」


ジゼルは目を閉じ桃々を見るように思う。

ゼヴはジゼルの友、そして二人がいる世界は現世とは違う、それを桃々が知るのはずっと先の事だ。


「 ゼヴ、俺は行く 」

「 ああ。うまくやれ 」


ジゼルはシェルビィダ王国の第一王子であり、黒騎士でもある。

そのジゼルが国を出て探し求めた前世からの恋人である街一番の美麗と言われた牛飼いの娘レイシー。その生まれ変わりである桃々の元へ旅立ったのだ。


「 桃々、何考えてるの?」

「 もう一度会いたいなって思って 」

「 高藤君?」

「 ううん、まさか。それだけはないよ 」


あの人に、また会いたい。なんでだろう、すごくドキドキする。あれは絶対に夢じゃない。

だから会えたら聞きたい、あなたは誰ですか?って。

名前しか知らない、あのキスは何だったのか……


「 桃々、また月曜日ね!バイバイ 」

「 うん。バイバイ 」


雨は止んだ。雷鳴と共に現れたジゼルを思いながら帰宅した。

ただいまと言っても父は帰っておらず、静かな部屋でベッドに横になる。


夕飯、何作ろうか… 父さん、今夜は飲みに行くのかな?

それにしても高藤君にはビックリだった、セフレとか言うなんて…… 本気で好きじゃないのに処女を奪うためにあんな告白したんだよね。

私がシンデレラだからってエッチしても幸せになんかなれないのに、おかしいよ。


制服を脱ぎヨレヨレの袖口に穴の空いたスウェットと、ズボンもウエストゴムが伸びて辛うじて捌けているが膝はすれてしまい足が見えているほどだ。

パジャマくらいと思うが1900円が痛くて買えないから着なれているこのスウェットが案外気に入っていたりもする。


「 シンデレラかぁ… 働かざる者食うべからず、ってね。私なんか抱いたって楽しくも気持ちよくないよ 」


どうせ抱かれるなら……


「 ジゼル… 」


呟いて彼を思い出すように目を閉じた。そして軋み沈む布団に目を開けると、見下げるジゼルがいた。


「 え!や、えっ!? あの、あなた… 」

「 お前の側にいる。俺の名を呼べ 」


会いたいと思っていたジゼルを目の前に手を伸ばし頬に触れようとした。躊躇する震える私の手を取りキスをするジゼルに胸の奥が高鳴る。


「 ジゼル… あなたにまた会いたいと思ってました 」

「 ああ。お前に俺を刻みたい、俺を受け入れるなら名を呼べ 」


あなたはどこの誰?聞きたい事が何も聞けず、ジゼルの見つめる瞳に酔わされているようで私は呼んだ。


ジゼル―――


唇に残る甘い余韻、目をゆっくりと開けると目前に目を閉じて私にキスしようとしている高藤君が映った。


「 い… イヤー!!」

「 おわっ… 」


私は拳にした手を高藤君へと力任せに思いっきりドカッと殴り当てた。見事だと自分でも思うほど手が痛くてたまらない。そのまま高藤君を見ないで倉庫から飛び出し足がもつれそうになっても走った。

そのまま教室へ行き息を切らした、吐きそうなほどだった。水筒のお茶を飲み、息を整えているとクラスで仲のいい玉井夕香がどうしたの?と心配顔で側にきた。


「 桃々、大丈夫?なんで走ってきたの?」

「 夕香… ねぇ私今、どこにいる?」

「 どこって、教室?何、どうしたの?」

「 教室… さっきは体育館倉庫にいたよね、なのになんで?どうやって… 夕香、私変だわ 」

「 うん、たぶん今変だと思う。ほんとに大丈夫?」

「 うん、ううん… 」


どっちなんだとやはり心配する夕香と一緒に帰る事に。その帰り道で私は夕香に高藤君の事を話した。そしてジゼルの話もしようとしたがあまりに信じがたい話だから話しても笑われそうでやめた。


「 高藤君さ、ちょっと鼻につくよね。イケメンなのは認めるけど実は裏の顔が危ないらしいの 」

「 裏の顔?」

「 可愛い女子はだいたい高藤君に処女捧げてるって噂、桃々はシンデレラってあだ名だから高嶺だと思われてるだろうし、高藤君には絶対彼女にしたい相手だったんだよ。私の彼氏は平凡で良かったよ。で、まさか高藤君としてないよね? 」

「 してないよ、殴って逃げたから 」

「 え!殴ったの!?やるじゃん、桃々最高!」


何が嬉しいのか笑いながら私を最高だと誉める夕香に私はため息つく。殴って逃げただけに高藤君があの後どうしたのか気になるが、私にはもっと気になる事がある。

あれは夢じゃないとの確信がある。

唇が、重なった唇があのキスを覚えているから。


ジゼル――― 彼の名前はジゼル。



その頃ジゼルは遠く離れた場所で桃々の思考を感じ取りその口には笑みがあった。


「 ジゼル、何が楽しいんだ?」

「 ゼヴ… 」

「 見つけたの?例の姫様 」

「 ああ、見つけた。名は桃々――― 」

「 ……変な名だな 」

「 構うなよ、俺のだから 」

「 構わないさ。それでジゼル、姫の側にいなくていいのか?」


ジゼルは目を閉じ桃々を見るように思う。

ゼヴはジゼルの友、そして二人がいる世界は現世とは違う、それを桃々が知るのはずっと先の事だ。


「 ゼヴ、俺は行く 」

「 ああ。うまくやれ 」


ジゼルはシェルビィダ王国の第一王子であり、黒騎士でもある。

そのジゼルが国を出て探し求めた前世からの恋人である街一番の美麗と言われた牛飼いの娘レイシー。その生まれ変わりである桃々の元へ旅立ったのだ。


「 桃々、何考えてるの?」

「 もう一度会いたいなって思って 」

「 高藤君?」

「 ううん、まさか。それだけはないよ 」


あの人に、また会いたい。なんでだろう、すごくドキドキする。あれは絶対に夢じゃない。

だから会えたら聞きたい、あなたは誰ですか?って。

名前しか知らない、あのキスは何だったのか……


「 桃々、また月曜日ね!バイバイ 」

「 うん。バイバイ 」


雨は止んだ。雷鳴と共に現れたジゼルを思いながら帰宅した。

ただいまと言っても父は帰っておらず、静かな部屋でベッドに横になる。


夕飯、何作ろうか… 父さん、今夜は飲みに行くのかな?

それにしても高藤君にはビックリだった、セフレとか言うなんて…… 本気で好きじゃないのに処女を奪うためにあんな告白したんだよね。

私がシンデレラだからってエッチしても幸せになんかなれないのに、おかしいよ。


制服を脱ぎヨレヨレの袖口に穴の空いたスウェットと、ズボンもウエストゴムが伸びて辛うじて捌けているが膝はすれてしまい足が見えているほどだ。

パジャマくらいと思うが1900円が痛くて買えないから着なれているこのスウェットが案外気に入っていたりもする。


「 シンデレラかぁ… 働かざる者食うべからず、ってね。私なんか抱いたって楽しくも気持ちよくないよ 」


どうせ抱かれるなら……


「 ジゼル… 」


呟いて彼を思い出すように目を閉じた。そして軋み沈む布団に目を開けると、見下げるジゼルがいた。


「 え!や、えっ!? あの、あなた… 」

「 お前の側にいる。俺の名を呼べ 」


会いたいと思っていたジゼルを目の前に手を伸ばし頬に触れようとした。躊躇する震える私の手を取りキスをするジゼルに胸の奥が高鳴る。


「 ジゼル… あなたにまた会いたいと思ってました 」

「 ああ。お前に俺を刻みたい、俺を受け入れるなら名を呼べ 」


あなたはどこの誰?聞きたい事が何も聞けず、ジゼルの見つめる瞳に酔わされているようで私は呼んだ。


ジゼル―――



私に被さるようにいるジゼルは見つめて縛られているような感覚だった。受け入れたらどうなるか、私の思考など些細な事で考えるなんて必要ない。ジゼルを目の前に何を拒む必要があるのか、不思議なほど真っ直ぐジゼルを見つめ重なる唇、その寸前声がした。ただいま!と父の声だ。


ハッとするとジゼルはいなかった。体をお越し部屋を見渡すがジゼルの姿はなく私一人。


「桃々ー?ただいまー、いるかぁ?」

「 はーい!」


呼ばれて行くとテーブルにはビニール袋があり中かを見なくてもわかる、ビールに焼酎の瓶が入っていると。

今夜は飲むんだとため息つく私に父は私に臨時収入があったからと小遣いをくれた。


「 どうしたのこのお金… 」

「 ちょっと競馬したら数百円がなんと!!三万だ、すごいだろ~ だから桃々に小遣いな。たまにはいいだろ、それで好きな物でも買いなさい 」

「 父さん… 無駄使いはしないで少しでも返済に使ってね。それと飲みすぎないで 」

「 はいはい。あ、これ牛丼。夕飯はこれでいいよな 」

「 いいよ、ありがとう 」


父は晩酌すると思い牛丼を持って部屋に行こうとすると父に言われた。いつも悪いな、と。

私は微笑み見せて部屋へ、するとそこは私の部屋じゃなく見覚えある部屋だった。


あのベッド…… まさかあの人がいるの?


「 ジゼル?」


恐る恐る小さな声で呟くように名を呼んだ。すると背中から包むように抱きしめられ心臓が跳ねた。

桃々―― 耳にジゼルの小さな声は囁くようで体の力が抜けていく。


「 桃々… お前の父は死ぬ 」

「 ……え?今、なんて…… 父さんが死ぬ?あの、これは笑える話じゃないですよ。いきなり死ぬとか、あなたは神様ですか?」

「 だが、死ぬ… 午前二時十三分、彼は死ぬ 」


まるで死神に死の宣告を受けたかのようだった。

何を言ってるの? ねぇ、私に冗談言わないで。会って間もない人に親が死ぬとか言われるなんておかしいよ。


困惑で目眩がする。ジゼルはそんな私を抱きしめ言った。これは運命だった、死を見つめ受け止め生きるしかないと。ジゼルは側にいると、私を一人にはしないとそう言った。


何かが間違っていると思いジゼルへ体を向き直すと視界にあった部屋が自分の部屋に変わっていた。

父さん―――

すぐに父のそばへと行くとテレビを見ながら笑い焼酎を飲んでいた。その姿にどんなにホッとしたことか…

父さんと声をかけて「なんだ?これ一緒に見るか、面白いぞ」と、今離れてはいけない、そんな気がして側にいた。

父を失えば私は一人に… 孤独になってしまう。


「 父さん、もう飲まないで 」

「 ん?心配しすぎだ。それより、桃々は彼氏いないのか?」

「 いないよ、そんな人… 」

「 桃々、お前は可愛い。誰よりも父さんが太鼓判押すよ、どんな奴が桃々の相手だろうと桃々を心から思って心が綺麗な奴と付き合ってほしいな 」

「 父さんが酒好きじゃ彼氏出来ても会わせられないね 」

「 いやいや、父親として彼氏出来たら会わせてくれよ 」


笑う父はまたテレビを見て酒を飲む。その姿はいつもの風景だが、ジゼルに父は死ぬと断言された今は私の目に映る父はいつもと違って見え、泣きたくなるほど恋しいと感じる。


しばらくして私はお風呂へ、その後部屋へ行き夕香とラインで話眠る。

深夜、私が眠っている間に父は友人から飲みに来いとの誘いを受け出掛けてしまった。

その後、父は予期せぬ事故で逝ってしまった。ジゼルの言うように時間は午前二時十三分だった。


父の死を知っていたが本当に現実になるとは……

葬儀では悲しいのに涙を流せず遺影を黙って静かに見つめた。


世の中、不運は付いて回るようで私を引き取る家族はおらず引き継ぐ遺産すらないのではと顔には可哀想にとあるのに冷たい心が手に取るようにわかった。

人の温もりなんてそんなものかと思いながら生活をどうしようかと悩む。

保険金はあれど多額なほどじゃなく、当たり前に使う気にはなれない。そんな私が学校へ行くと募金箱が設置されていてまさにシンデレラだと自分でも思った。

さらに私に最大の不運が舞い降りた。

それは、まるで身売りするかのようで神様はやはり残酷だと思い知った。


高藤和希、私に告白しセフレになろうと考えた最低な奴でキスしようとしたところを殴った相手。その高藤君の父親は医者で外科の有名な先生、ならびに祖父が病院を経営している。そして私は後に知る、西蔵高校の生徒達が知らない、知っていても数知れない高藤君の秘密を。


「 桃々!桃々!!ちょっとほんとなの?嘘だよね?」

「 わからない… まだどうしていいか 」

「 だって高藤だよ!なんであいつん家なの、ハイエナにウサギじゃん、ダメだよ 」

「 私じゃ決められないの。未成年だし、施設よりはって名乗り出てくれたみたいだから 」

「 だからってなんで高藤… 私、何があっても桃々の味方だからね!」


引っ越ししなければならなくなり荷物を片付けていると、一人のスーツを着た男性が来て何枚もの用紙を目の前に出されサインをしてくださいと言われた。用紙を読もうにも男性は高藤家の顧問弁護士で内容を要約すると、高藤家に住むに当たり注意事項などの事が書かれていると言い、サインをすれば高藤家で不自由なく暮らせると言われた。

安易かもしれないが私は逆らえないと思い言われるままサインをした。


この時より荷物は弁護士の指示の元業者が動き私は身一つで高藤家にやって来た。


「 早瀬桃々… 俺に感謝しろよ。この家で暮らせるのは俺のおかけで、お前は俺の世話人でもあるからな 」

「 世話人?」

「 そ。お前は俺のって事、親父は昨日から学会で留守、ちなみに学会は地方である上にしばらく帰らない。だから、お前と俺、メイド、叔母の華江、それと… 」


話を聞いているだけで頭痛がしてくる、さらには吐き気を感じるほど木持の悪いものだった。そこへ更なる不運が来た。


「 和希?ねぇその子… 」

「 ああ、瑞希。紹介するよ、早瀬桃々だ。唯一俺をフッた女で今日から俺付の世話人だ 」


似てる…… 和希に瑞希、高藤君は双子?


目の前に瓜二つの男女、高藤兄妹がいる。まさに一卵性でいて見るからに性格も同じように見えた。


「 あなたがうちに引き取られた子?あ、シンデレラだったわね 」

「 シンデレラじゃないけど… 」

「 喋らないで、話して言いなんて言ってないから。それに、和希をフッたあんたは和希のオモチャなんだから、喋らないで黙って静かにいればいいの 」


女は達が悪いものだった。この双子に私はきっと遊ばれるんだと悲しく思う。救いの手はない―――


会いたい彼は今どうしているのか、出来るなら私を拐ってほしいと願うだけ。


ジゼル―――


部屋に案内されるとそこは高藤君の部屋であり、鍵こそついてはいるが部屋のドア一枚で繋がる部屋になっていた。


「 早瀬桃々、お前に命じる―― 今夜は満月、お前は俺が抱いてやる 」


指差し宣告された私はもう地獄に行きたいと強く願った。

残酷な運命を私に与える神様に、私を救う事は出来ない。

まるでハイエナの檻。

逃げ場なく、見えない鎖で繋がれたようだ。


父さん、死ぬ運命だったなら私が良かった……

こんな人に私は辱しめられる。

どうやって幸せになれるの?心が裂けそうだよ―――

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黒騎士が愛でるシンデレラな彼女 吉川はるひ @haruhi-s

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