第25話 いらない子
八尋は幼い頃から自分は「いらない子」なのだと思っていた。
両親から実際にそのような言葉を投げつけられていたし、何かを失敗するたびに殴られていたから、あまりにも不出来な自分なんていないほうがいいのだと本気で思っていた。
ちょうど颯汰と同じ七歳の頃、理不尽に叱られたことがあまりに悔しくて悲しくて、衝動的に家の二階の窓から身を乗り出したことがある。
眼下の庭には、ちょうど洗濯物を干そうと表に出ていた母がいた。窓が開く音に気づいたらしい母が顔を上げ、一瞬驚いた表情を見せた時は、少しだけ嬉しく感じたのを憶えている。自分が危ないことをしようとすれば、あれほど厳しい母でも驚いて心配してくれるのだと思ったのだ。
だが母の目はすぐに険しくなり、八尋を睨みつけながら「飛べるもんなら飛んでみろ!」と怒鳴りつけてきた。
八尋は飛べなかった。母の言う通り、そんな度胸は八尋にはなかった。
そして、八尋が飛んだところで母は全く気にしないだろうということに、気づいてしまった。
怖じ気づいた自身への悔しさと、自分の命に価値がないことを自覚した恐ろしさでぐちゃぐちゃになりながら、こんなことするんじゃなかったと涙を流しながら後悔した。その後すぐに家に駆け戻ってきた母から苛烈な暴力を振るわれたが、身体に痛みがあるだけでもう悲しくはなかった。
この日以降、八尋は母に愛される可能性に見切りをつけた。
颯汰とちゆきに同じ思いはさせたくない。どうすればいい。八尋は自問する。
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