年上の炎使いのお姉さんにもう一回○○してもらうために、レベルを上げる低レベル時魔導士の僕の話

ヒラメキカガヤ

第一章 お姉さんと出会って○○をする

第1話 始まった

 そのキスは、熱く濃厚だった。


 口内をかき混ぜられるような舌使いに、抵抗する余地なく、ただされるがままに

自分の口を、心を彼女に預けた。


 炎のように熱く、燃え上がるような彼女のキス。


 まるで彼女特有の炎の力で生み出される灼熱で、身体中の水分が蒸発するようだ

った。


 僕は、確かに思った。


 時間が、止まってしまえばいいのに、と。






 ある朝。



 僕は、小さな田舎町の一般家屋の一室で目覚めた。


 なんとなく、変な感じだった。


 誰かの力によって、時を戻されていたような感覚が、しこりのように僕の頭を巡

るみたいに。


 無能な僕にも、こういう感覚はちゃんと感じることが出来るのか、と場違いにも

ホッとする。


 僕は、時魔導士。文字通り、時の力を司る魔導士で、同じ属性の時魔法には少し

だけ耐性があるから他の時魔導士が世界の時間を戻したり早めたり止めたりして

も、違和感として感じ取ることが出来る。


 閉められても端から朝日が漏れるカーテンを開放し、大都市『ウィザーズセント

ラル』を眺める。


遠くからでも大きなビル群が林立する街は、足りなくなってしまった。


 『クリスタル』。


 それは、直径約一メートルで、高純度の魔力を秘めた結晶で、ウィザーズセント

ラルにそびえたつ標高六百十メートルのタワーに、厳重に保管されていた。


 四方からの魔法の干渉を受けない魔防壁と、実弾銃を雨のように撃てる数百の固

定機銃。


 そして、中枢部に張り巡らされた、関係者以外の人間を仕留める雷魔法でできた

電磁パルス。


 なぜそうまでして国はクリスタルを守るのか。


 今の時代、おそらくすべての人間が必要としているからだ。


 そのクリスタルは、『インターネット』というものを生み出す力を持ち、僕たち

の連絡手段を、紙による手紙から一気に変えた。


 今となっては、日常生活以外にも産業や政界などで必須となったインフラの結晶

が、一年前、一夜にして消えてしまった。


 誰が、どうやって、どんな目的で、クリスタルを破壊したのか、十四の僕には分か

りようがなかった。感じ取った違和感から、僕以外の時魔導士が事件に関与したと

いうことくらいで。


 寝巻から外着に着替えて、今やガラクタとなってしまったスマホを、再起すること

を願いながらズボンの左ポケットにしまった。


 「おはよう」


 一階に降りると、中年の女性が気持ちのいい声で僕に話しかけてきた。


 「おはよう、おばちゃん」


 彼女は、大衆食堂を経営しているおばちゃんで、幼いころに親を亡くした僕を、

母の友人のよしみで、引き取り、二階に住まわせてもらっている。


 「今日も早いのね」


 「おばちゃんの方が早いでしょ?」


 部屋にかかったアナログ時計の短針は九を越えている。毎朝五時起きの彼女にとっ

ては決して早起きではないのにと苦笑する。


「私は、おかずの仕込みがあるから早いのよ。リン君はゆっくり勉強でもしてちょ

うだい」「僕だって、お店の手伝いしたいよ。最近繁忙期なんでしょ?」


「いいのよ。カズキ君の学校に早く行きたいんでしょ?」


「それはそうだけど…」


 彼女は、息子でも何でもない僕に、優しい。


 甘やかされている自覚があるからお店の手伝いをしたり、家でご飯を作ったりし

たいのに、彼女はこうしてまた親切に振舞う。


 「カズキ君は、僕のことなんて、そんなに思ってないだろうし」


 「そんなこと言わないの。カズキ君は、ちゃんとリン君のこと思ってくれてるは

ずよ?」


 「そうかな…」


 「そうよ!」


 劣等感の強い僕に、こうして優しく励ましてくれるところも、本当に感謝してい

る。


 カズキ君。


 僕と同じ年齢なのに、勇敢で人当たりがよくて、街のみんなから慕われていた。


 言わば優等生の彼は、ウィザーズセントラルの有名士官学校に入学して、この街

を離れた。


 まあ、士官学校に行くために町を出て行ったのは、何も彼だけではない。


 十四の齢なら地元を離れて学校に通うのなんて当たり前だ。


 なのに、僕だけが、この町から出られない。


 弱いからだ。


 魔法も使えない魔法使い。


 時魔導士が初めて魔法を使えるレベルは30からで、このレベル30という数字

は、毎日のように魔物を倒すか、ダンジョンに出てくるような強力な魔物を倒さな

いと到底到達しない。


 炎魔法や雷魔法のような一般的な魔法は、レベルが一からでも小さな火球や致死

性の低い電撃が使えるのに。


 一説によると、世界の調和を保つために時魔導士や空間魔導士は、神によって安

易なレベル上昇を阻まれていると言われているが、そんなもののせいで、こんな魔

法のせいで、僕は一人、取り残されることになった。


 カズキ君も、僕を嗤ったいじめっ子たちも、みんな普通に町を出て、普通の大人

になっていく。


 「会いに行きたいんでしょ?」


 「えっ…」


 「そんな顔してる」


 おばちゃんが、僕の胸中を見透かすように、確信をもって問いかけた。


 「でも…」


 クリスタルの破壊で、連絡が取れなくなったカズキ君に会いたい、と何度思って

きたことか。


 「ロンド君にも、会いたいんでしょ?」


 「兄ちゃん…」


 僕には、年の離れた兄がいる。同じ時魔導士で、僕なんかよりもよくできた兄。

その彼が、もしかするとクリスタル破壊事件に大きく絡んでいる可能性がある。だ

からこそ、彼にも会ってちゃんと話さないと。


 「はい、これ」


 渡してきたのは、折り畳み式の小さなナイフ。


 「もし、魔物や盗賊が襲い掛かって来ても、このナイフを真上にかざせば、いつで

もここに帰れるようになるから」


 彼女は、説明した。


 「なんでそんなもの…」


 「あなたのお父さんが友人づてでもらったらしくて、あなたが小さいころから、

ずっと持ってたの。こういう時のために」


 彼女の顔が次第に曇っていく。


 「私は、あなたのことを、本当の息子のように思ってきたし、これからだって、あ

なたをちゃんと育てていきたいから、どうか、無理しないでね…」


 「おばちゃん…」


 僕のことをそんな風に思っていてくれたことが嬉しかった。


 「危なくなったら、迷わず使うのよ」


 「…うん」


 僕は、涙が止まらなかった。


 息が苦しくて、鼻の奥がツンと鈍く痛んで、顔が熱くて。


 「約束する。絶対帰ってくるから…!」


 彼女が、僕を抱きしめる。


 初めてだった。


 おばちゃんから、こんな風に我が子のように抱きしめられたのは。


 涙を流しながらも、カズキ君のいる街に、必ずたどり着いてやると硬く決心し

た。


 数日分の缶詰とお金の入った巾着袋、護身用の木剣、そして例の転移できるナイ

フを携えて、準備を完了し、一時の別れを告げる。


こうして、僕の旅は始まった。



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