イミテーション・ウイッチ

猫町大五

第1話


今でも夢に見るのだ。数々の人体実験の跡。人間として一切扱われず、失敗すれば廃棄され、成功すれば兵器として、徹底的に『モノ』として扱われる。

それらを、見てきた。

幾つものそれらの始まりを、幾つものそれらの経過を、幾つものそれらの結果を。

そして、幾つもの――残骸と残滓を。






 シティ・ワン。今や地球の最下層、世界の掃き溜めと化した都市になど、行こうとする人間は皆無。上層とは隔離され、往時の栄光は見る影も無い。

 ――だが、何処にも娯楽は有る物だ。必要なのだから。

 

「あら、いらっしゃい」

喧噪の中、タキシードを着た大男がにこやかに微笑む。この街唯一の酒場、「ミルズ」のママだ。

「いつもの?」

一つ頷くと、カウンター席の一つに座った。


「お待たせ」

一分も待っていない。ガラスの灰皿と共に、煙草が数本。それにマッチの小箱が付いてきた。マッチで火を点けると、辺りにきついバニラの香りが広がった。周りの客の目線が刺さる。

「あら、強すぎたかしらね。フレーバーを増やしたのよ」

首を振る。立て続けに数本吸い、最後の一本に火を点けた時、それは起こった。


入り口の扉が乱暴に開かれる。客も皆驚き、そちらを向いた。


――気付けば、立ち上がっていた。呆然と。

「あんた、どうしたのよ?!」

ママが驚きの声を上げる。いや、そんな気がした。・・・多分、間違いない。


腰まで伸びた白髪。知的ながら幼さの残る、東洋風の顔立ち。自分の肩ほどしか無い背丈。


そして。・・・これは、間違いない。間違える筈が無い。


「・・・ただいま」


藤色の瞳が笑う。


「・・・また、死に損なったよ」


――酷く悲しそうに、笑っていた。



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イミテーション・ウイッチ 猫町大五 @zack0913

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