あめつづき

秋生冴子

第1話 モノクロネット

 試験期間が始まった。試験といっても、スマホ以外ならなんでも持ち込みオーケーというラクな試験である。試験が始まる15分ほど前に教室についたが、受講生はほぼ全員すでに座っていた。教授が教卓の引き出しをあさっている。


 教室は殺伐とした空気ではなく、私は授業で配られていた資料を何の気なしにバラバラと開いては閉じ、開いては閉じを繰り返していた。腕時計が重いので、外して机の上に学生証と一緒に置いた。


 時計が18時を指し、試験開始を知らせる。


教授「もう試験を始めますが、資料がない人いたら、いま配布しますが。」


なんてラクな試験なのだろう。試験前に笑いが起きた。


 A5サイズほどの答案用紙。大問が2つほどしかない論述問題だ。複雑な論述ではなく、用語の概念を説明したり、とある事例について説明したりする簡単なものだ。資料から探すのも苦ではなかった。


 高校時代から使っている、色が剥がれ落ちたシャーペンが手になじむ。すらすらと1問目を解き、2問目を解き始める。途中2、3行の修正が必要なことに気づいた。だが慌てるまでもない。


 試験開始から30分が過ぎ、解き終わった学生が数名退出していった。私は解き終わった解答用紙をぼんやりと見つめていた。


 奇妙な安心感と心地よさに包まれた。真っ白な解答用紙の上に、粗雑な文字が列をなしている。


 さらに細かい世界へ飛び込む。長かったり短かったりする無数の黒い線が交わっている。曲線を描いていたり、まっすぐな軌道を描いていたり。線だけでなく、点も存在している。いま私が見下ろしているのは、誰にも作れない世界だ。同じ字でも線と線、点と点、線と点の間隔がどれも違う。

 

             

              不思議な快感が走る。

 

 

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