幼馴染と一緒に異世界貴族生活

秋山叶

第1部 転生

プロローグ

 空は俺の沈んだ心とは正反対で雲一つない快晴。今日は俺の幼馴染の小日向あんずの葬式の日だ。葬式に参列していた俺は遺影の中の優しい笑みを浮かべる杏を見て心が締め付けられるような気がした。

 杏とは家が隣ということもあって小さいころからずっと一緒にいた。杏は昔からおっとりとしていて、物静かな性格だったため、俺のやることで随分と振り回してしまった。

 杏はトラックに轢かれそうになった小学生を庇ってはねられたのだという。しかもその日は俺の誕生日と被っているというんだから、とんだ誕生日プレゼントをもらったものだ。

 俺はまだ、あいつに何もやれていない。言うべきだった言葉も言えていない。俺は杏に好意を抱いている。幼馴染を好きになるなんてベタだ、というやつもいるかもしれないが、好きになってしまったのはしょうがない。しかし、あいつはこの想いを伝える前に遠いところへと行ってしまった。二度と会うことのできない、遠い場所へと……。


 葬式が終わり、呆然としたまま帰宅した俺は、小さい頃よく杏と一緒に遊んだ公園へと来ていた。公園では小学生数名がサッカーをしていた。


 ベンチに座り杏に想いを伝えられなかったという後悔と自己嫌悪にさいなまれていた俺はこれまでの人生について思いを馳せていた。勉強も運動もさほど得意ではなく、何も特徴がない俺。そんな俺に杏はいつも分け隔てなく接してくれた。そんな杏だから俺は惚れたんだろう。それなのに俺は彼女に何もしてやれていない……。

 無気力な状態の俺は帰ろうと立ち上がった。その時一人の小学生が道路に出てしまったボールを取りに行くのが見えた。スピードを落とさないところを見ると居眠り運転をしているようだ。ボールを取りに行った小学生は恐怖により体が動かないようで、立ち竦んでいた。考えるよりも先に体が動いていた。気が付くと俺は小学生を突き飛ばしており車の前にいた。

「俺、あいつと同じことしてるな……」

 眼前に迫った車を見ながら俺は自嘲気味に呟いて、


 そこで意識を手放した。



 意識が覚醒すると俺は一面真っ白な世界にいた。漂うような感覚。体もろくに動かすことのできない。所謂死後の世界ってやつだろうか。そんなことを考えていると

「もしもし。聞こえますか?」

 どこからか声が聞こえてきた。どこの誰だよ……。

「あ、私ですか? 私は創造神ってやつですよ。気軽に神様とでも呼んでください」

 うわーでたよ。ベタな展開。

「もうっ! そんなこと言わないでくださいよ」

 あ、キャラ崩れた。

「神様だから威厳のある態度とらないといけないのに……。調子狂うじゃないですか」

 あ、これなんか面白いわ。

「ごほん。それはそうとですね、あなたに提案があって来たんですよ」

 提案?

「はい。あなた、もう一度人生をやり直しませんか?」

 は?

「だから、もう一度人生をやり直しませんか、って提案なんですけど」

 それは……転生ってやつか?

「まあそうですね。転生って言っても異世界に、ですが」

 うわーでたよ。ベタな展開。

「まさかの二回目っ!?」

 この人本当に神様なのかな? 威厳の欠片も感じられないんだけど…。

「本当ですよっ。もう。調子狂うなあ……」

 で、何のために俺を転生させると?

「一つはあなたが前世に未練を残して死んだからですね。もう一つは転生先の世界に危機が迫っているので、それを救ってほしいんです」

 ふむふむ。なるほど。

「あと、ぶっちゃけあなたを送ったら面白そうじゃないですか」

 本当にぶっちゃけたなオイッ!

「で、結局どうするんですか? 転生するんですか、しないんですか?」

 はいはい、しますよ。すればいいんでしょ?

「じゃあ決まりですね」

 はぁ、面倒なことになったなあ。

「そんなこと言わないでくださいよ。サプライズもありますから」

 サプライズ?

「ええ。あなたも幼馴染の方も一緒に転生させるので、今度は頑張ってくださいね?」

 ……は?

 自称神様はそう言って姿を消した。……そういや世界の危機の詳細聞いてないや。そんなことを考えていると俺の意識は再び闇に落ちた。

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