第36話 宙からのシグナル
「んーーー、これってどういう映画?」
「地球外文明、神の存在を否定、テロ? 確かに巨大な装置が破壊されちゃったけど」
記代子自身も映画のストーリーに入り込む事が出来ないまま眺めていたから、結局映画を通じて何を伝えたかったのかというメッセージを汲み取る事が出来ないでいた。
「
「途中でスマホ触ったりトイレ行ったりしてたらそりゃあ分からないでしょ」
「だって学校サボってるっていう罪悪感があるから、学校から親に連絡行ってないか気になって……」
前回のループ時には並行世界から
「何となくは分かったけど、こういうの映画の解説なら
両親の影響を多いに受けて、透はこういった内容の映画に詳しい。もしかしたら内容を知っているかも知れないと時恵は話す。
「ちょうど学校の授業が終わってる時間だから、電話してみよう」
時恵がスマホを操作して、直接電話番号を入力していく。
(うわぁ、本当に暗記してるんだ)
若干引き気味の記代子の独白に、心音はあえて言及せずに時恵の指先を見守る。
(うわぁ、本当に暗記してるんだぁ、って思ってるんでしょ)
「ふふふっ」
「えっ、何で笑ったの?」
なぜ心音が笑ったのか、記代子が思い当たる前に透との電話が繋がる。画面を操作してハンズフリー通話にする時恵。
『もしもし……?』
「透さんのお電話でしょうか?」
『誰?』
「
『はぁっ!!? 何で知ってんだ!?』
「はい夢子ルート入りました~」
「透と夢子ちゃんが付き合い始めたんだって」
「いやわざわざはっきり言わなくても雰囲気で分かるから」
スマホの向こう側で渡と夢子がわちゃわちゃ言い合っているのが伝わって来る。
(夢子がいるなら話が早い)
スマホを操作して通話を切り、今度は電話帳から夢子の番号を呼び出して発信する。
『もしもし時恵ちゃん? 体調大丈夫?』
「透、見てんじゃないわよ!」
『えぇっ!!? 何で知ってるの!? ってさっきの電話も時恵ちゃんなの?』
「ちょっと、カップルで遊ぶのはとても良いと思うけど、話が進まないんじゃない?」
意地悪な表情を浮かべている時恵の肩を、記代子が突く。想い人だった透とその恋人になった夢子に思うところがある為、時恵のからかい自体はもっとやれと思うものの、いつまで経っても本題に入れないのはよろしくない。
「夢子、ちょっと透に聞きたい事があるから代わってくれる?」
『えぇっ!? 聞きたい事があるなら最初から普通に聞けば良かったんじゃないの……』
ぶつぶつ言いながらも、夢子は言われた通りに透へと代わる。
『何だよ、どっかから見てたのかよ』
「透視能力と予知夢。超能力を手に入れたのはあなた達2人だけじゃない」
『……なるほど。で、聞きたい事って何だ?』
SF映画の知識がある為、根掘り葉掘り聞くまでもなく時恵の話を受け入れる透。時恵が何らかの超能力を使い、自分と夢子のやり取りを知ったのだと理解した。
「宙からのシグナルって映画、観たことある?」
『映画の話? まぁ、観たけど。転移装置を作って宇宙人に会いに行く話だろ?』
「宇宙人なんて出て来たっけ?」
「お父さんの姿で出て来たよ、何かキラキラした不思議な場所に行った時に」
ハンズフリー通話の為、記代子と心音の会話が伝わる。
『時恵ちゃん、学校サボって友達と映画見てたの?』
「そう、2人とも超能力者なの。それで分かってもらえる?」
『あー、事情があるってのは理解した』
ある程度知識がある者は、それっぽい事を言うだけですんなりと察してくれるようだ。実際はただ単に学校をサボって時恵の家に集まり映画を観ていた、それだけだ。
「で、この宙のシグナルなんだけど、この映画を通じて何が伝えたかったんだと思う?」
『えぇっと、簡単に言うとだな……。この宇宙のどこかにいるであろう知的生命体に向かって、電波を発してた高度文明がいてだな』
透の解説をまとめると、高度な文明を持つ宇宙人が電波を全宇宙へと送っていた。その電波に気付いた宇宙研究者の女性が解析をし、長距離転移装置の設計図である事を突き止める。大富豪のスポンサーの力を借りて見事その巨大な装置を完成させる、というストーリーだ。
「うん。それは観てたから分かるんだけど、何であの宇宙人は何の手がかりもなしに女の人を地球に返してしまったのかなと思って」
『それはだなぁ、あぁー電話越しだと説明しにくいわ! 明日じゃダメなのか?』
「ダメ、今じゃないと」
明日という日が来ない以上、今聞かなければならない。
「この家に呼んだらいいのに」
(呼んだら夢子も来るでしょ、事情を説明させられるでしょ、次のループに連れて行かなければならなくなるでしょ)
「あっ、そっか」
今はまだその時ではないと、時恵は考えているようだ。
『あの宇宙人は、この広い宇宙にいるのはお前達人類だけじゃないぞって言いたかったんだと思う。孤独ではないし、唯一の尊い存在でもない。もっと進んだ科学力を持つ自分達がいるんだぞって。
だからその、悲観する必要もないし、驕る事もないように釘を刺す、みたいな』
「分かったような分からないような……。でも分かった、ありがとね」
『ちょっと時恵ちゃん!? 明日は学校来る? その時に詳しく聞けばいいんじゃないかな?』
「うん、行けたら行くね」
ピッ、ツー、ツー、ツー。
「行けたら行くね、か」
時恵の心情を慮り、暗い表情を浮かべる記代子。行けたら行く、という言葉にいろんな意味が盛り込まれている事を知っているからこそ、時恵に掛ける言葉が見当たらないでいる。
「結局何が何だか分からなかったね、何であのお兄さんは巨大装置を爆破したの?」
心の声は聞こえても、空気は読めない心音。時恵はそんな心音の額を突き、ふふっと笑った。
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