プロローグ【ハルト・シンドー】

 十一年前のことだ。

 俺が五歳の頃、俺たち家族はアブソリュート帝国との国境近くに住んでいた。

 父親が、国境を守るブレイズ共和国の兵士だったからだ。

 国境を守るとはいえ、ちょっとした小競り合いがある程度で、平和な村だった。

 父親は強くて、大きい人だった。顔よりも、広い背中を先に思い出す。

 母親は元気が良くて笑い上戸。家の中はいつも明るい雰囲気にあふれていた。

 だが、あの日。

 俺が隣町までお使いに行って、戻って来たとき――、

 村は凍り付いていた。

 雪に白く染められた中に、真っ赤な血が流れていた。

 家に駆け込むと、そこには冷たくなった父親と母親。

 傍らに立つ帝国の兵士が、俺に向かって剣を振り上げる。

 その時――俺の中で、何かが目覚めた。

 体から炎が噴き出し、帝国の氷を溶かす。

 帝国兵を燃やし、家を、村を焼き払った。

 忌まわしい記憶を消すように、俺から生まれた炎が村を消滅させた。

 炎の中でたった一人。俺は、つぶやいた。

「俺は、許さない……帝国を」

 その時、俺の中で、誰かが囁いた。


 ――探せ。そして手に入れろ、滅びの力を。


 そいつは、俺に言った。

 半身を探せ、と。

 自分のもう半分。


 ――『魔王の半身ジユリエツト』を。

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