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　幽（ゆう）邃（すい）たる地球は華（か）麗（れい）に循（じゆん）環（かん）していた。

　輪（りん）廻（ね）の大河を遊泳したわたしは古代の地球へと到（とう）達（たつ）した。

　紀元前一世紀の邃（すい）古（こ）羅（ろー）馬（ま）帝（てい）國（こく）にてわたしは蘇（そ）生（せい）された。高（こう）邁（まい）なる貴族の末（まつ）裔（えい）として誕生したわたしは絢（けん）爛（らん）たる共和政の邃（すい）古（こ）羅（ろー）馬（ま）帝（てい）國（こく）において人生を謳（おう）歌（か）していった。澎（ほう）湃（はい）たる二十一世紀の悲劇も忘（ぼう）却（きやく）していたわたしは巍（ぎ）峨（が）たる歴史のとおりに悲劇の武将として生（しよう）滅（めつ）するはずであった。歴史は狂（くる）わされた。勇（ゆう）猛（もう）なる顔（がん）貌（ぼう）の少年となったわたしは溟（めい）濛（もう）たる洞（どう）窟（くつ）へと潜（せん）入（にゆう）したときに太古の壁（へき）画（が）と邂（かい）逅（こう）した。磊（らい）塊（かい）たる岩（いわ）肌（はだ）の隅（すみ）々（ずみ）には太古の大激（げき）震（しん）から叛（はん）逆（ぎやく）者による歴史の終（しゆう）焉（えん）までが彫（ちよう）刻（こく）されていた。わたしはさとった。悲劇的なる人類の歴史を髣（ほう）髴（ふつ）として遼（りよう）遠（えん）なる時空を超（ちよう）越（えつ）した輪（りん）廻（ね）転生の運命を認（にん）識（しき）した。鬱（うつ）勃（ぼつ）たる野望が沸（わ）きおこった。永（えい）劫（ごう）回帰の運命を熟知していれば悲劇的なる人類の歴史を豹（ひよう）変（へん）させられるかもしれないと。

　溟（めい）濛（もう）たる洞（どう）窟（くつ）の壁（へき）画（が）はわたしに隠（いん）蔽（ぺい）された。

　怒（ど）濤（とう）の邁（まい）進（しん）がはじまった。巍（ぎ）峨（が）たる人類の歴史を熟知しているわたしは悲劇的なる史実を回想することによって凱（がい）歌（か）をあげていった。澎（ほう）湃（はい）たる危機も記（き）憶（おく）のとおりに超（ちよう）克（こく）してゆき巍（ぎ）然（ぜん）たる属州総（そう）督（とく）して黎（れい）民（みん）のこころを総（そう）攬（らん）するにいたった。君臨のときがおとずれた。荘（そう）厳（ごん）なる元老院と対（たい）峙（じ）せざるをえなくなったわたしは高（こう）邁（まい）なる熱血漢と豪（ごう）族（ぞく）の末（まつ）裔（えい）とともに秘（ひ）密（みつ）裏（り）の盟約をかわした。峻（しゆん）厳（げん）なる元老院を凌（りよう）駕（が）するにいたったわたしたちは絢（けん）爛（らん）たる三頭政治として邃（すい）古（こ）羅（ろー）馬（ま）帝（てい）國（こく）の頂点に君臨することとなった。悲劇は回（かい）避（ひ）できなかった。武（ぶ）勲（くん）への焦（しよう）燥（そう）感に猛（もう）襲（しゆう）われた豪（ごう）族（ぞく）の末（まつ）裔（えい）が戦（せん）没（ぼつ）して高（こう）邁（まい）なる熱血漢が元老院と結（けつ）託（たく）したことにより栄（えい）華（が）は終わった。わたしは決断した。絢（けん）爛（らん）たる三頭政治の崩（ほう）壊（かい）により高（こう）邁（まい）なる熱血漢である盟友との衝（しよう）突（とつ）へと驀（ばく）進（しん）していった。

　絢（けん）爛（らん）たる邃（すい）古（こ）羅（ろー）馬（ま）帝（てい）國（こく）は混（こん）沌（とん）たる戦場となった。

　澎（ほう）湃（はい）たる衝（しよう）突（とつ）が勃（ぼつ）発（ぱつ）した。寡（か）少（しよう）なる軍隊を煽（せん）動（どう）したわたしは荘（そう）厳（ごん）なる元老院と結（けつ）託（たく）した盟友の巨（きよ）大（だい）なる軍勢と衝（しよう）突（とつ）した。悲劇的なる歴史を熟知しているわたしは厳（げん）粛（しゆく）なる運命のとおりに万（ばん）斛（こく）の敵軍を撃（げき）滅（めつ）していった。凱（がい）歌（か）をあげようとしていた。灼（しやく）熱（ねつ）の埃及（えじぷと）へと遯（とん）竄（ざん）した盟友を猛（もう）追（つい）するわたしは悲（ひ）愴（そう）なる歴史を髣（ほう）髴（ふつ）として罪悪感に猛（もう）襲（しゆう）されてしまった。高（こう）邁（まい）なる盟友は灼（しやく）熱（ねつ）の埃及（えじぷと）で斃（たお）れるはずだと。巨（きよ）億（おく）の人類の悲劇を阻（そ）止（し）するためであろうとも永（えい）劫（ごう）の羈（き）絆（はん）を誓（ちか）った盟友をわたしは犠（ぎ）牲（せい）にしてしまうのかと。邂（かい）逅（こう）を果たした。燦（さん）爛（らん）たる太陽の君臨する埃及（えじぷと）へと到（とう）達（たつ）したわたしは英（えい）邁（まい）なる国王の威（い）令（れい）により暗殺された盟友の遺（い）骸（がい）を抱（ほう）擁（よう）した。号（ごう）泣（きゆう）した。悲（ひ）愴（そう）なる盟友の指輪をゆだねられたわたしは潸（さん）然（ぜん）と慟（どう）哭（こく）した。

　燦（さん）爛（らん）たる太陽にわたしは懺（ざん）悔（げ）した。

　悲劇は終（しゆう）焉（えん）ではなかった。勇（ゆう）猛（もう）に奮（ふん）闘（とう）してくれたわたしの麾（き）下（か）たちは蠱（こ）惑（わく）的（てき）なる顔（がん）貌（ぼう）の乙（おと）女（め）を叛（はん）逆（ぎやく）の罪人として緊（きん）縛（ばく）してきた。高（こう）邁（まい）なる盟友を愛（あい）慕（ぼ）していた乙（おと）女（め）は澎（ほう）湃（はい）たる暗殺を阻（そ）止（し）するために謀（む）叛（ほん）をくわだてたのだという。わたしは容（よう）赦（しや）した。高（こう）邁（まい）なる盟友のために犠（ぎ）牲（せい）にならんとした乙（おと）女（め）に崇（すう）高（こう）なる精神を垣（かい）間（ま）見（み）たわたしは処（しよ）刑（けい）などせずに尋（じん）問（もん）した。あなたは崇（すう）高（こう）なる罪人であると。わたしのためにいかなる罪をも犯（おか）してくれないかと。乙（おと）女（め）は黙（もつ）考（こう）した。灼（しやく）熱（ねつ）の大地にひざまずきながら躊（ちゆう）躇（ちよ）していたが巍（ぎ）然（ぜん）たるわたしを呪（じゆ）詛（そ）するように見（み）詰（つ）めて盟約をむすんだ。いわくいかなる人間も呪（のろ）えましょうと。わたしを救済してくれたあなたのほかならばすべてと。わたしは凱（がい）旋（せん）した。巍（ぎ）峨（が）たる歴史を裏（うら）切（ぎ）って罪人の乙（おと）女（め）を愛妻とするために。