Treasure ~明日散る花~

夕辺歩

第1話 出会い


 あっ! とレペセセは思わず叫んだ。

 家屋かおくに戻せば小さな集落丸一つ分はあるだろうか、浜を埋め尽くすほど押し寄せた木切れやら何やらの中に、それはまぎれていた。

 気配を察してか、近付くと泣き出した。椰子やしの実の小舟に乗せられた赤ん坊だった。

 こんな小さなものが、これだけの漂流物に押し潰されることなく、どこからも遠くへだてられたこの島まで辿たどり着こうとは。

 恐る恐る、レペセセは日に焼けた両腕に赤ん坊を抱えた。泣き方はいよいよ激しくなった。

 この島でち果てろ――!

 去り行く船の上からそう吐き捨てられて以来、何十年ぶりに耳にする、乳飲ちのみ子のものとはいえ人の声だった。

 レペセセは重ねて驚いた。襤褸ぼろに包まれた赤ん坊のひたいに、赤土あかつちで記された『海神のにえ』を意味するしるしを見つけたからだ。先日の大嵐を、こんな古臭いまじないにすがってまでしずめようとしたらしい。

 ともすると、滅びたのは彼が幼い頃を過ごした村なのかもしれなかった。

 長閑のどかな海辺の懐かしい毎日が抑えようもなく脳裏に蘇った。

 郷愁に囚われたレペセセを鋭い痛みが襲った。

 伸び放題に伸びた彼の白い顎髭あごひげを、赤ん坊がその小さな手で掴んで引っ張っていたのだ。

 泣き声はますます大きくなる。抱えたままでは耳もふさげない。

 レペセセは天をあおぎ、俺はまだゆるされていないのだな、と改めて思った。

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