お嬢様、それは……とても素晴らしいです!と言うしかない。
朝の清流
第1話:犬より賢いお嬢様
僕はアーノルド家に仕える下民。
使用人の中でも、下っ端中の下っ端である。
しかし幸運なことに、アリサお嬢様には気に入ってもらえている。
側付きを任せられているのは、それが理由だ……と信じたい。
「ねぇねぇ、カルト聞いて! 今日ね、
美しい金髪ストレートロングヘアと青い双眸。純白で艶やかな肌の美少女、アリサお嬢様。
あと数日で十二歳を迎えられる、立派な淑女。婚約者も決まっていて、残すは学舎を卒業するのみ。
しかし僕は心配だ。アリサお嬢様は、如何にせん頭が……いや、いつでも独創的な発想をなさる素晴らしいお方だ。うん、大丈夫。僕のような下民が心配することではない。
「それは素晴らしいですね、お嬢様。流石です。私のような下民には「犬よりも賢い」の意味が理解できているかは定かではありませんが、まさに、その通りだと思います」
「ふっふっふー! やっぱり、カルトはおバカさんね! 仕方ないから私が教えてあげるわ!」
ベッドから立ち上がったアリサお嬢様。
部屋の扉を開き、パンパン、と二度手を鳴らす。
「おいでー、アレックス!」
「ワンワン!」
急いで走ってきた茶色い毛並みの大型犬、アレックス。
お嬢様の周りをグルグルと回ると、突然止まり、何か腑に落ちない表情を浮かべた。
小首を傾げたお嬢様は、アレックスを撫でようとしゃがみこむ。
「どーしたの、アレックs……」
「ワンワン!」
お嬢様の手は、見事に空を切った。
アレックスが大喜びで僕の足元へと駆け寄ってきてしまったのだ。
お嬢様の心温まるお気持ちを無下にして、いつも餌をあげている僕の前でしっぽを振る阿呆な犬。
(この犬、なんて空気が読めないんだ)
僕はアレックスを睨んだ。すると「キャウゥ〜ん」と可愛い鳴き声を上げ、アリサお嬢様の方へと渋々歩いていく。
「流石です、お嬢様! アレックスはお嬢様の美貌に誘われていったようです!」
「え、でも今完全にカルトの方に……」
「いいえ、お嬢様。それは違います。そうですよね、アレックス?」
「ワ、ワオーン!」
(そうだ。それで良いアレックス。この状況を見越して躾けた甲斐があった)
すると少し元気を取り戻したお嬢様は、
「そ、そうよね! やっぱりアレックスは私のことが大好きなのよね! ねー、アレックス?」
「……ワ、ワン!』
「うふふ。ほら見て、やっぱり犬は賢いのよ! ちゃーんと私の言ってることも理解してるし。いつも遊んであげてる私が大好きだって言ってるし。これでさっきの「犬よりも賢い」の意味が分かったでしょ、カルト?」
「え、ええ! 流石はお嬢様。低脳な私でも理解できる説明をなさるとは。やはりお嬢様は私の三倍、いや、二十倍ほどは優れた頭脳をお持ちです!」
ご機嫌そうにアレックスを撫で回していたアリサお嬢様。
しかしなぜだろう。急にその手が止まってしまった。
目から光を失い、おもむろに口を開き始める。
「……サンバイ。あぁ、サンバイね! うん。私はサンバイの頭脳の持ち主なのよ! それだけたくさんのことが頭に詰まってるんですから!」
片言でサンバイと言い続けるお嬢様。毎度のことながら、僕はこの瞬間が大嫌いだ。
一体どういう間違い方をされているのか。本当に皆目見当がつかない。
でもどうしても、聞きたくなってしまう。
「ちなみに……サンバイ、とはどう言った意味か。実は私、意味を知らずに申し上げてしまったのですが……」
お嬢様は考える。冷や汗を流して、頭をフル回転させる。
あぁ、もういやだ。なんで僕は聞かなくても良いことを聞いてしまったのだろうか。
でもどうせなら、後戻りできないのなら聞いてみたい。
そして数秒後、お嬢様は何かを閃かれた。
「お、大きなコップ三杯分のサンバイ、よ。よ、よく覚えておきなさい、カルt……」
「っぷ」
「い、今、笑った? 笑ったわよね、カルト⁉︎」
「い、いえ。そんなことはないですよ……っぷ。さ、流石はお嬢様! いつも素晴らしい博識さを披露してくださり、ありがとうございます!」
コップ三杯分の頭脳って……。
一体お嬢様の中でのコップは、どれだけ大きいのだろうか。
きっと、アレックスの脳みそよりは大きいのだろう。
そうであると、僕は信じたい。
「ま、まぁ、雇い主として当然のことよ! これからも分からないことはなんでも聞くといいわ! 私が教えてあげる!」
ホント、僕は楽しいお嬢様の使用人になれて幸せだ。
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