第49話 沢口家はびっくりするほどのお金持ちである
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よろしくお願いします
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沢口家はびっくりするほどのお金持ちである。
アニメの中にしかないような広大な館に住み、運動会ができそうな人数の使用人を召し抱えている。
その館のあまりの広さは迷子どころか遭難すら有り得るほどで、館内移動には室内用電動ビークルを使用するという恐るべきブルジョワっぷりである。
内装はいかにも西洋のお屋敷とばかりの白亜と真紅のカーペットでありながら各所にビークル用のエレベーターが設置されているので、どこかそういった高級ホテルのようにも見えてくる。
そんな館に入れば、すぐそこに用意されていた小型の二人乗りビークル。
家族用の中型機もあるが、那月が運転手として綾がソフィアを抱っこすれば小型でも席は足りる。
どうせ綾とソフィアは一日中いちゃいちゃと密着しているのだから、わざわざ広々とスペースを用意する意味もさしてない。
早速ソフィアと向き合うように抱き合って乗り込んだ綾。コートは座席後ろの荷物スペースに置いた。
なぁなぁと媚びるようなわざとらしい鳴き声を上げてじゃれついてくるソフィアをにこにこと楽しそうに構ってやりながら、しばらくビークルに揺られる。
そうしてある部屋までやってきたところで、ビークルは停車する。
その頃には日向ぼっこする猫くらいにまったりしていたソフィアを優しく抱っこしながらビークルを降りれば、那月が扉をコンコンとノックした。
「お嬢様方をお連れいたしました」
『ああ!待っていたよ!入ってもらいなさい!』
「失礼いたします」
那月が開いた扉の向こうは、贅沢な一人暮らしができるくらいの広さの部屋。
そこにはこの世の贅の限りを尽くしたかのような色とりどりのお菓子と、ソフィアの両親が待ち受けていた。
「やあよく来たね!あけましておめでとう!」
「アヤさん、今年もよろしくお願いします」
「こちらこそよろしくお願いします。あけましておめでとうございます、おば様、おじ様」
きらきらと目を輝かせて見せびらかすように両腕を広げるソフィアの母親と、穏やかに微笑むソフィアの父親。共にソフィアと同じ色彩の持ち主で、いかにも若々しい。
「さあ座りなさい!もちろんそこに隣合って……いやいっそ膝の上でもいい!というかそうすべきだ!ああなんたることだろう!それなのにどうして私は椅子を四脚も用意してしまったんだ!?」
「この間アヤさんが好きと言っていたお菓子を沢山用意してみたんです。存分に召し上がれ。ああもちろん、いくら好きだからと言ってもソフィを食べてしまってはいけません」
「あはは。お言葉に甘えさせてもらいます」
「もう。すこしはおちついてほしいものですの」
ぷく、と頬を膨らませて見せながら、綾が席に座ってもさも当然のように抱っこされたままのソフィア。
そんな姿にソフィアの母親はなんとも嬉しそうに歓声を上げた。
「ああ!なんて素敵なことだろう!うちの
「綾様、お嬢様。お紅茶にございます」
「あ、どうもありがとうございます」
「おねえさま、ソフィはそこのマカロンがたべたいですの♡」
「うん。美味しそうだね」
今にも天に召されそうな具合のソフィア母をスルーして、那月の容れた紅茶でティータイムを楽しむ綾たち。
綾とソフィアの関係は、綾に他にも恋人がいるという点まで含め、ソフィアの両親公認となっている。
常識的に考えて社会人と小学生の恋愛など到底認められるものではないのだが、そこは綾に対する信頼の成せる業……というよりは、両親の寛容すぎるソフィア愛によるものだった。
ソフィアが幸せであるのならそれ以上のことはないというふたり。
なんならご報告に行ったらその場で快くオッケーをもらった程である。
そんなふたりなので、ソフィアと綾のことをなんのかんのと聞きたがる。
特に最近は一緒にゲームをやり始めたということで話題は尽きることがない。
ついでに、綾の肩についた痛々しい歯型や頬のキスマークなんかも話題に上ったりするが、それでも談笑といった雰囲気が崩れない辺りまったく狂った空間だった。
基本的にはソフィア父との会話となり、ときおりソフィア母が騒ぎ立ててはやんわりと受け止めたりしている間に、ソフィアがひととおりお菓子を楽しんで満足したらしい。
そうすればもうここにいる用はないと、ソフィアは甘えるように綾を見上げた。
綾はにっこりと頷き、両親へと視線を向ける。
「すみません。そろそろソフィとお部屋に行きますね」
「もうそんなに時間が経ってしまっていたのか!名残惜しいけれど仕方がないね!」
「ゆっくりしていってくださいね」
「はい。じゃあ行こっかソフィ」
両親に挨拶をした綾は、ソフィアと共に部屋を後にする。
そうして、那月の運転で向かうのは、ソフィアの部屋。
可愛らしいネームプレートのかけられた扉の向こうには、なんともメルヘンチックな部屋が広がっている。
ふわふわの絨毯と淡い色の壁紙、天井からは豪奢なシャンデリアが吊り下がり部屋の真ん中には天蓋付きのキングサイズベッド。抱きつけるほどのぬいぐるみが部屋のところどころに寝転んでいて、家具の類はベッド以外にほとんど見当たらない。
見ればベッドの上には、この部屋の空気感に全く不似合いなメカメカしいヘッドセットが乱雑に放置され、ベッド脇の丸テーブルには種々の機材が鎮座していた。
どうやらソフィアはこの部屋でAWをやっているらしい。
綾はソフィアを抱っこしたまま部屋に入ると、そのままベッドの上に座らせる。
そっと跪くようにしてソフィアのブーツを脱がしてやり、同じくベッドに座って自分もブーツを脱いだ。
それからよいしょとソフィアを抱き直してベッドの中ほどまで乗り込み、そこでソフィアを横たえる。
くてん、と仰向けになって綾を真っ直ぐに見つめる甘い碧眼。
ぞくぞくと背筋を震わせた綾は、四つん這いになるようにしてソフィアを見下ろす。
ソフィアの手がそっと持ち上がって、綾の頬を撫ぜた。
「すきですの、おねえさま……♡」
「好きだよ、ソフィ」
唇を震わせるだけのような、輪郭すら甘くぼやけた声。
鼓膜を愛撫されるような感覚に目を細める。
目を細めると、世界が酷く狭く閉ざされる。
世界の全部がソフィアに満ちる。
ソフィアの手が頬をつまんで、するりと解けて、誘うように唇をなぞる。
らんらんと輝く瞳。
綾のご奉仕を期待してうっすらと頬が染っている。
「いちじつせんしゅうのおもいでまっていましたの……♡」
「私も、ずぅっと、ソフィに会いたかった」
「まぁ♡」
手を取って、薬指の先にそっと唇を触れる。
関節をまたいでもうひとつ、もうひとつ。
それから甲に触れる。
そうしたら、また指先に口付ける。
そして緩やかに舌で引き寄せるようにして、指先から口に含む。
口内で蠢く細やかな感触。
弄ぶように舌をくすぐられ、味わうように絡め取る。
やがてすっかり薬指が見えなくなってしまったところで、綾はソフィアの肌にやさしく歯を突き立てた。
「ぁんっ♡」
痛みに喘ぐ声すらも艶やかで。
綾から与えられる痛みを幸福と疑っていないように、ソフィアは恍惚に瞳を潤ませた。
その視線と見つめ合いながら、もったいぶるように念入りに跡を刻んで、それから舌先で慰める。
くすぐったがって悶えるソフィアの反応をしばらく楽しみ、それから緩やかに口を離す。
薬指をぐるりと囲む歯型。
まるでエンゲージリングのようで、ソフィアは蕩け落ちそうな笑みを浮かべる。
つぃ、と伸びる唾液の糸を舐め取り口を離した綾は、そうして歯型のリングに永い永い口付けを落とす。
「すてきなプレゼントですの……♡」
「もっと、あげるね」
にこりと笑った綾は、手を裏返して、橈骨動脈に触れる。
とくとくと唇で脈を味わって、ちぅ、と吸う。
かぷ、と、歯を唇で隠すようにしながら細やかな雪細工を食む。
すす、と唇を滑らせれば、ソフィアは嬌声を上げて身を震わせた。
布地を押し上げるようにして顔を動かし、腕の真ん中を強く吸う。
口を離せば、白雪の上に真っ赤な花びらが散っている。
ソフィアの腕がそっと綾の首に回される。
身体を持ち上げるように綾に抱きついたソフィアは、綾の首の後ろについた誰かのキスマークを見つけて、その瞳に嗜虐的な光を灯す。
「ねえ、おねえさま?」
「うん」
「ソフィとあわないあいだに、なんにん、なんかい、だきましたの?」
「……四人、二十六回」
「うふふ、おさかんですのね♪」
楽しげな声音。
その奥底で煮えたぎる地獄のような嫉妬に、綾は当然のように身を浸した。
倫理などというもののせいで、綾の愛を身体の奥まで感じられないことが憎らしい。
自分が許されない感覚を、他の誰かが許されていることが妬ましい。
時に蝕まれいずれは消えてしまうような跡を刻むだけでなく、壊れるくらいに愛して欲しい。
それができないのならと。
ソフィアは、他の誰もがしないことを、綾に欲する。
キスマークを抉りとるように、爪を突き刺す。
がりがりと皮膚を削る爪の感触に、綾の頬がひくっと上がる。
痛みに悦ぶ無様な姿に、ソフィアの笑みが裂けんばかりに広まっていく。
自分だけだ。
自分だけが、綾を傷つけている。
他の誰も入ったことのない肉の中に、自分だけが入っている。
他の誰が綾の血の味を知っているだろう、他の誰が綾の皮膚の厚さを知っているだろう。
そんなソフィアの淀んだ快楽を、綾は手に取るように分かっていた。
だから痛みを与えられる度に、ぞくぞくと、冷ややかな熱が全身を駆け巡る。
ソフィアの熱烈な愛を受け入れているという快感がそこにはあった。
かぷ、と耳に噛み付く感触。
熱く煮えたぎる嫉妬が、刃のように耳を痛めつける。
喉の奥でくぅー♡くぅー♡と鳴く声に誘われるように、綾はソフィアの背中にあるドレスのチャックに手をかけた。
じじ、と、チャックを下ろす。
顕になっていく、少しだけ汗に蒸れた真っ白な背中。
置き去りになっていた金糸がなまめかしく曲線を描いて綾を誘っていた。
浮き上がった背骨を、指先でなぞる。
かりっ、と爪の先を立てれば、幼い体躯はぴくんと弾んだ。
かりかりと、爪のかく皮膚が、赤く、軌跡を描く。
―――残り、六年と二百六十七日後まで。
自分が、どうしようもないくらいに愛おしい彼女を壊し尽くすまで。
他の誰にも渡さないように、自分のものだと主張するように。
幼さという残酷な美しさが。
無垢な真白が、穢れていく。
■
《登場人物》
『
・セックスしてないからセーフです()。お前の中の基準ガバガバかよ。……自分のキャラにブーメラン投げてる気分。でも過去の雰囲気からしてこれくらいは全然問題ないと思います。しないって明言までしてますからね。少女は肌を出すことすら許されないとか言われたら知らんですけども。
『
・血とか肉とか痛みとかを与えることに興奮を覚えるタイプ。どうかしてるぜ。完全に悪い大人のせいで性格歪んでる……。とはいえ実は綾と出会ってから一年経過していないんですけど。割とその時点で性格は固まってたりするので、まあ、はい。ソフィアちゃんかわいい!
『
・スーパー使用人はスーパー使用人なので地の文に書かれないくらいスマートに退室出来る。まあそりゃあ見ていたいものではないでしょうとも。次回っ!
『
・どちらも純ロシア人。放任主義とかいう次元じゃねえ……。正直どうかしてるとしか思えない恐るべき受け入れ力。ソフィアを自由にやらせまくっているのもそうだし、綾を相手に選んでオッケーとかさあ。この人らもこの人らで色々と思惑はあるけれど、まあ最終的にはたったひとつ。ソフィアに幸あれ。
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