淝水の戦い~
【劉裕・孫恩】the dead zone
気付けば、右腕が飛んでた。
何日目の籠城戦だったか、朦朧とした中で雲霞のごとく湧く敵兵どもを殺してたら、いきなり天井を見てた。やかましく騒ぎ立てる奴らが群がるなか、
「だから言ったろうが、なんでおまえが最前にいなきゃいけねえんだ! ここでお前におっ死なれてみろ、この
「うるせえ、大将がいちいち揺らぐな」
上体を起こし、劉裕を見る。
海塩城の奥、重傷者どもが担ぎ込まれてる部屋。うめいてるやつ、もう息してねえやつ、様々だ。なにぶんまともな手当もしてらんねえし、ここにいるやつのうち、何人が生き延びられんのか。たぁ言え、他の奴らだって、まだ死んでねえだけだ。
「裕、笑っちまうくらいの大負けだな。ならいっそ、博打に出どきじゃねぇか?」
「は? 何いってんだ」
「俺らを目立つとこに置け。エサにして、お前らは隠れてろ。もう戦えねえふりをすんだ。で、奴らが食いついてきたとこを、思いっきし叩け」
「ふざけんな、みすみすお前を見殺しにしろってのか!」
ぶん殴ってやろうと思ったが、畜生、右腕がなきゃ、もう片方の手をヤツの胸に押し付けるっきゃねえ。
「アホか、お前だってそろそろ限界だろうに。なら、仲良くみんなでおっ死ぬか、ダメ元に賭けるか、だ。これであいつらが不気味がって撤収してくれたら儲けもんだろが」
まだ覚悟の決まりきってねえ面してやがる。こいつもこんな情けねえ顔すんだな。ざまあねえ。
ぐい、と拳をさらに押し付ける。
「いいから俺に、てめえの大勝ちのタネ銭ぐらいにゃなれた、って思わせてみろってんだ」
あいも変わらずの情けねえツラのまんまじゃこそあったが、このとことんな急場、のんびり迷う贅沢なんざ許されねえ。
ようやく覚悟が決まったか、劉裕の目つきに力が戻った。
「わかった。なら、それで行かせてもらう――いいか、お前らにもここで死んでもらう!」
劉裕の叱咤に、それでも余裕がある奴らぁ、にやりと笑ってみせた。俺についちゃ劉裕自身に担がれ、砦の門近くにまで運ばれる。
「おい、俺が天下の大将軍になったら、てめえにどでけえ家と召使い、それと美女をたんまり用意してやるからな。そう簡単にくたばんじゃねえぞ」
そいつを聞き、俺は笑う。
「莫ァ迦、生き延びてから言え」
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