解説:梟なるは蓋し常なさざらしむべし

テーマ「切り札はフクロウ」。

栄えあるカクヨム三周年記念イベント第一回のテーマ。「え? ちょっと短編のテーマとしてはとんがり過ぎてない?」とワクワクしたものですが、この当時は参加しようかどうしようか迷っていました。そしたらあっさり締め切り過ぎちゃうじゃん? もう開き直ることにしましたよね。


切り札はフクロウ。うん、梟首刑が奥の手になるような話だな! そんな次第でお話を組み立てていくのと同時に、過去作「祭已畢焉」でやったようなエセ擬古文調で書くとどうなるのかを試してみようと思いました。そしてこれらのテーマとして扱うのは、世説新語 政事19。

https://kakuyomu.jp/works/1177354054884883338/episodes/1177354054886116600


どうにもこのエピソードにおける桓温像が、俺の知ってる桓温像と合致しなかったので、こそに「切り札としての梟首刑」を絡められると面白そうかな、と言うノリでやりました。まぁもうコンテストもクソもないタイミングでの提示だし、思いっきり趣味全開! そんな感じです。


そして一方では、梟首。


これ、なんで「梟」なのかが正直よくわからなかった。なのでその辺りも頑張って調べました。調べたというか、どこまで典拠を掘り下げられるか、ですね。こないだも新元号「令和」の典拠についてあーのこーのと言う話題がありましたが、俺は俺でこっちでキャッキャしてましたよ。


で、この言葉。調べてみると史記にいきなりぽんと出てくるんですよね。

史記高祖本紀第八。


(帝)病愈,西入關,至櫟陽,存問父老,置酒,梟故塞王欣頭櫟陽市。留四日,復如軍,軍廣武。關中兵益出。


この感じだと、少なくとも司馬遷の時代においては当然の用法であったようです。この辺について大平御覧にもあたりましたが、どれもこれも「そう言うものだから」くらいしか載ってない。それじゃ典拠とは言えません。これは困った。


で、いろいろ漁ってくうちになんとか「どうしてその用法になったのか」が記されてる文献に辿り着きました。それが本編中にも名前を出している「説文解字」です。やったね! これで「なんで梟なのか」が説明できるよ!

梟:不孝鳥也。日至,捕梟磔之。从鳥頭在木上。

よしよし、これで何とか説明はできそうです。


ところでこれっていつの辞書なのかしら。

漢の許慎が編著(子の許沖が後漢の安帝に献上)


後漢かよ! 高祖本紀の何百年あとだよ!


と言うわけで、ぼくの「梟首」典拠探しの旅はここで力尽きました。司馬遷の時代に当たり前に使われている以上、もっと前に理由があるはずなんですけど、そいつは見っけられず。うぬぬ。思わず叫びましたよね、「そんな最近の情報持ってくんじゃねえ!」って。


この辺をえっちらおっちら調べてたら、KAC10 の締め切りもぶっちぎっちゃいそうになりました。困ったものだ。一応のあれとして、やっぱり KAC 期間内に公開したかったのです。と言うわけで完成したこの作品ですが、まぁなんつーか、タイトルからして読者バイバイはなはだしいよね! しってた!


あれなんですよ、将来書きたいファンタジーもので、威厳ある大魔王にいかめしくしゃべらせたいじゃないですか、そう言うののためにも、この手の文章をもっと磨き上げておきたいのです。そう、こういう言葉遣いはアクセントであるべきです。全編でやるべきものじゃありません。


まぁ今後もやるけどな!



参考資料


世説新語 政事19

https://kakuyomu.jp/works/1177354054884883338/episodes/1177354054886116600


史記 高祖本紀8

https://ja.wikisource.org/wiki/%E5%8F%B2%E8%A8%98/%E5%8D%B7008


大平御覧

巻646 刑法部 梟首

https://zh.wikisource.org/wiki/%E5%A4%AA%E5%B9%B3%E5%BE%A1%E8%A6%BD/0646#%E6%A2%9F%E9%A6%96

巻927 鳥部 悪鳥

https://zh.wikisource.org/wiki/%E5%A4%AA%E5%B9%B3%E5%BE%A1%E8%A6%BD/0927#%E6%83%A1%E9%B3%A5


説文解字 巻6

https://zh.wikisource.org/wiki/%E8%AA%AA%E6%96%87%E8%A7%A3%E5%AD%97/06

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