回顧録8
「転校生を紹介します」
あの騒動から夏休みを挟んだある日。おれは自分の通う高校の二階、二年の教室窓側最後尾の席で、ほとんどいつものような朝礼を迎えていた。
ほとんどというのは、異物があるからだ。それは担任が紹介した転校生とやらだった。
「初めまして、ギリシャから来ました。フィリナです、どうぞよろしくお願いします」
ギリシャ語とカタカナのフルネームが書かれた黒板の前で、流暢な日本語で挨拶したのはまさしくフィリナだった。
銀の長髪と白い肌が、うちの学校のセーラー服に恐ろしいほどよく似合っている。
「……か、かわいい。洋ロリはリアルに萌えですな」
「歳変わらんだろ、美人なのは同意だが」
悪友の男子どもの下品な評論が聞こえる。けれども、それはまもなく費えた。
フィリナがおれにウインクをして声を掛けたのだ。
「久しぶりね、竜太くん」
「……お、おう」
遠慮がちに返事をした途端、嫉妬と疑惑の視線が無言で突き刺さる。
「あ。竜太くんとは、彼が幼い頃アテネに来たときに知り合ったんです」
これまで周囲にはさんざん語っていたことなので、フィリナのその説明でみなは納得したらしかったが、同時に騒ぎも起こった。
「――じゃあ、あの子が例の思い出の少女!?」
「わざわざ海外から転校して再会に来るなんて、ロマンチック過ぎない?」
「ちくしょうリュウの野郎! ただの片想いバカと思ったのに、将来約束されたようなもんじゃねーか!」
「……は……ははははは」
おれはといえば、そんな苦笑いで応じるしかない。理由はいろいろあるが、とりあえずこのときは隣が恐怖だった。
そこでは留美がおれとフィリナを交互に睨みながら、唸るような声を上げていたのである。
「ほう、なるほどあれがねえ。リュウに色目まで使っちゃってさ……女の嫉妬は怖いよぉ?」
フィリナは離れた空いている席に座らされた。それを不機嫌そうに腕を組んで眺め続ける留美の方へと身を乗り出し、おれは恐る恐る肩を叩く。
「……なあ。今日、おまえに大事な話があるんだが」
こちらにぱっと顔を輝かせた留美の机へと、ノートの切れ端に記したメッセージを投げた。
「感激、竜太くんがあたしを選ぶだなんて。やっと告白を受け入れてくれるのね」
握った手を顔の横にくっ付けてキラキラしている留美を、以降無視した。ここは幸せな解釈をさせておくほうが身のためだったからだ。
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