回顧録2
前年に発見された南極ウイルスが全人類に感染したらしいのは知ってたけど、その陰で、アメリカ発祥のカルト教団〝
なのに、そんな夏の日。おれがあの日記を発見した翌日の放課後に、事は起きたんだ。
人によっては喜ぶんだろうけどおれはそのときうんざりしてた。
夏服のYシャツでもズボンは熱吸う黒だし、夕方とはいえ太陽と石畳の熱放射コンボが襲ってるクソ暑い日にだ。同級生の
おまけに当然、それなりの人目があるってのに腕組んできて、定番であるマロンカラーのポニテをそれこそ尻尾みたいに嬉しそうに振りながらなついてきやがんの。
「……おまえ、いいかげんに離れてくれないか」
同年代では小さい方の体格をいかして抱きついてくるそいつを半ば引きずりつつ要求しても、
「うふふーん、リュウが付き合ってくれるまでこうしてるもーん」
とかぬかしやがるの。もうこっちは「ぐぬぬ」と唸るしかないわな。
――先に警告しとくが、これは自慢じゃない。自慢じゃないが、おれは結構イケメンらしい。あくまで結構で完璧じゃないが、クラスの男子にもよく嫌味言われる。
故にこんな風に言い寄られることも稀にあったが、おれはそんなに嬉しくなかった。申し訳ないが、これまで告られてもお断りしてきた。
別にウホッでもない。正直、この娘は逃したくないってくらいかわいい子もいた。留美もその一人だ。
でも、ギリシャのあの子のことがずっと頭にあった。アホみたいだろうけど、それくらいフィリナの印象は強かった。
だからバイトして貯めた小遣いと次の夏休みでも使ってギリシャに行って、あの子を捜したりしたかった。それで振られたり見つけられなかったりしたらあきらめる、そう決めてた。
それまではこんな半端な気持ちのままじゃ、付き合う相手にも失礼だろうと。
ところがどっこい、留美は普通じゃなかった。
こいつはおれとは反対に、今まであらゆる男に告ってはことごとくOKされ付き合ってきたそうだ。ロリ系の美少女だからな、まず断る野郎はいない。だが、〝付き合ってきた〟って、意味わかるだろうか。
なぜかすぐ別れて他の男に走るということだ。お蔭でビッチという噂も耳に入っていた。その次のターゲットにおれが選ばれたわけだ。
もちろん、こっちは断った。留美にしてみれば、初めて断られたわけだ。
それがよほど気に食わなかったらしい。こいつはこうして付きまとうストーカーと化していたのである。
「だが断る! 付き合うつもりはねーって言ってんだろ!」
「うん、これで記念すべき100回聞いた。でもあきらめないもーん!」
「そんなもん数えてどうすんだよ……」
初めて聞いた具体的な回数に呆れた。まさにそのときだった。
『――緊急地震速報です。強い揺れに警戒してください』
同じような音声や効果音が、街のあちこちで反響した。もちろん、おれたちのスマホからも。
「え、マジで?」
驚いたようにそう囁いて、留美がちょっと離れた。
隙に。おれは避難するでもなく、解放されるチャンスとばかりに路地裏へと逃げていた。
「あー、卑怯だぞ! リュウ!!」
非難する留美の声も追ってきたが、もう構わなかった。まさかこのあと、全生物が死に絶えるなんて想像もしなかったんで。
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