No. 53 夏至の野原で僕らは夢見る

その夏は特別だった。

縛られ、けれど守られてきた期間を終え、

僕らは今、自分の力で飛び出していく。

子どもと大人の境界線。

二度と来ない季節。


風が梢を揺らす音が僕らの周りを満たし、

その音に押し出されるように森を抜ければ

見渡す限りの草原が広がっていた。


青い花が揺れていた。

無数の青い花が。

空と草原が結びつくその先まで。


そして空は

その青から生まれたかのような薔薇色だった。

青を内包し、青を感じさせて輝き、

けれどどこまでも薔薇色で、

ああ、まるできみのようだねと僕は言った。

それは僕のせいだと彼女が頬を染めた。


風が花の色を攫って空に届けるの。

揺らめいて滲んで溶けて広がって

そうして何よりも美しくなる。

だから私にも青が必要よ。


青い花さざめく中で、

青を抱いた薔薇色を背に、

彼女が僕に微笑んだ。

それはそれは愛らしく柔らかに。


だから頂戴、私に頂戴。

あなたの青を。

何よりも素敵なものを。

もっともっと。


森からの風が花咲く野を震わせる。

空は青い吐息に包み隠されて

恥じらうように揺らめき淡く輝いた。


その夏は特別だった。

何よりも特別だった。

何もかもが特別だった。


僕らの青は薔薇色に溶け、

世界で一番美しい色になった。



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