春隣(はるとなり)
高石すず音
春隣(はるとなり)
すっかり買い忘れてしまった
年末の帰省の切符
いつも発売日を覚えていたのは
小雪をすぎると
きまって祖母の電話があったから
「冬休みはいつ帰ってくんの、早よ帰っといで。」
そう云って、
穏やかによく晴れた
こんな土曜の朝だった
思い出したように
祖母から電話があったのは
「帰れるときにいつでも帰っといで、
おばあちゃん、待ってる。
今日は話できて、ほんまによかった。
ありがとう、ありがとう。」
大寒をすぎた朝のこと
祖母が逝った
帰郷の途
光がとろとろと車窓に差しこんで
私の背中をあたためていた
母からメールがきた
「おばあちゃん、もうすぐ帰ってくるよ」
おばあちゃんが家で待っていた
「ただいま」を言った
庭に咲いていた
紅梅を手向けながら
東京はまだ北風が
通勤の人の背中をまるくしていた
けれど、
祖母の生きた
春の足音がたしかに聴こえていた
春隣(はるとなり) 高石すず音 @takaishi_suzune
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます