脳が死んだ話

@azuma123

第1話

 ある日起きると脳が死んでいた。そういったことは少なくないが、今回はひどかった。のたうちまわるほどに頭が痛く、電話が鳴りやまない。電話をとると知らない男の怒鳴り声が聞こえるが何について怒っているのかまったく分からない。電源を切ってもずっと着信音が響いておりしんぼうたまらず、わたしはアパート四階の部屋の窓から電話を投げ捨てた。突然ドアをノックする音が聞こえ、それはノックというよりはやたらめったら力いっぱいに殴っているような音だ。ひどい頭痛をぶら下げて立ち上がり、なんとか玄関まで進む。ドアを開けると先ほど電話で怒り狂っていた男である。怒りのため風船のようにパンパンに膨らんだ頭を一秒毎二〇回の速度で振りたくりわたしの部屋に入ってくる。電話口と同じくわめいている内容はわからないが、とにかく怒っている。大量の唾をまき散らし頭がどんどん肥大化していく男を眺めながらとにかくわたしは頭痛をどうにかしたいので頭痛薬を探す。とんでもない痛みで目がかすんでいるため薬箱に手を突っ込み手探りで探し当てようと思ったが箱の中いっぱいにクラゲが発生していた。クラゲをかきだすが下からわいてわいてどうにもこうにもままならない、頭痛がひどい。クラゲはわたしを敵とみなし箱に突っ込んだ手をその毒手でプツリプツリと刺し始めた。怒り狂った男の頭はこれ以上ないくらい膨れ上がって爆発し、脳髄と脳が飛び散りわたしの部屋を真っ赤にした。頭痛薬は諦めてもう一度寝ようかと思ったが、隣の家だろうか目覚まし時計の音が先ほどから響いておりうるさくて寝られない。四階から放り投げたはずの携帯が玄関ドアの新聞受けに入っておりまたしても着信音を鳴らしている。電源を切らなくてはいけないので新聞受けを開けると死んだ猫がドロリと五〇匹ほどかたまって流れ出てきた。猫の死骸をかき分けて着信を鳴らしている電話を探すも猫が多すぎて探せない。頭痛がひどく痛みで嘔吐する。わたしの吐しゃ物をぶっかけられた猫の死骸はおどろいて生き返り、なめくじのような身体をずるずるとひきずり腐臭をまき散らしながら部屋をうごめきまわる。頭痛のため嘔吐がとまらぬ。なんどもなんども吐いて吐いて水をのんでまた吐いた。目の裏側を鈍器でゆっくりつぶされていく感覚がありそれが頭痛からくる錯覚なのかほんとうにつぶされているのかわからない。わたしの部屋は真っ赤になっており死んだ猫はなめくじのようにうごめき臭いと頭痛がひどい。この頭痛をどうにかしたいと頭痛薬を取り出すため薬箱に向かうが虫がわいており近づけない。しかたがないのでこのまま寝たいのだ、意識を、殺せ、意識を、目覚まし時計の音が、携帯の着信音が、死んだ猫とクラゲと虫が、目玉の裏が。頭を破裂させた男の頭が再生しており一秒毎二〇回の速度で振りたくっている。ある日起きるとわたしの部屋は真っ赤になっており、脳は死んでいた。携帯の着信音がけたたましく鳴っており、のたうち回るほどに頭が痛く、多量の虫がわいていた。

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