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ちびまるフォイ

人を判断するのはなに基準?

「おめでとうございます、元気な男の子ですよ。

 それではさっそく性格診断をはじめましょう」


赤ちゃんは生まれてから親に触れられるよりも先に

まずは性格診断が行われるのが普通だった。


それから17年後。


俺は17年前の診断結果で女の子にフラれる。


「ごめんなさい。タイプ:Aの人とは合わないの」


「いやいや! そんなの付き合ってみないとわからないよ!

 あくまで性格診断でしょ!? なんで信じちゃうの!?」


食い下がる俺に女の子はムッとした。


「人生性格診断は単なる占いと一緒にしないで!

 AIによるディープラーニングをスピードラーニングしたものなのよ!?

 今だって進学や就職でも使われる信頼性の高い情報なの!」


「でも17年前だろ……?」


「無垢な赤ちゃんのときの診断結果だから信頼されてるのよ!

 それにあなたと付き合いたくない理由はほかにもあるの!」


「ほ、ほかに?」


「昨日告白された後、彼氏履歴書と人生経歴書を読んだの。

 私とは絶対に合わない。さよなら」


「それで時間がほしいって言ったのか……」


ついでにビンタもされて、俺の人生経歴書には再び告白失敗が刻まれた。


「俺にいったい何が足りないっていうんだ……」


俺から見ても人生経歴があまりよくない人はたくさんいる。

なのに、誰もがことごとく彼女もちというステータスを得ている。


おそらく影響しているのは「性格診断」なのだろう。


"根暗型"などとさげすまれている呪われし性格タイプ。

この性格だとバレた段階でどうしても下がってしまう。


「なんとかもう一度性格診断させてもらえませんか?」


「ダメダメ。あなた、タイプAでしょう?

 あなたみたいな性格傾向の人がよくやってくるんですよ」


「せ、性格は関係ないじゃないですか!」


「いや実際、統計的にも再診断にやってくるのはタイプAが多いんです」

「ぐぬぬ……」


「タイプAだというのはあなたのパーソナリティなんです。

 それを否定したり隠したりすることではなく、認めてください。

 そうすればきっとあなたの長所が見えてきますよ」


「長所……」


「ま、私はタイプAのような人間とは関わらないっすけど」

「おい」


再診断の夢が絶たれたことで、なんとか人生経歴書をモテる方向にしたいと思った。

だいたい高校生男子が思いつくことはバンドである。


「バンドをはじめるからギターがほしい?」


「そう! 今まで趣味らしい趣味がなかったから!

 この夏休みにはじめてライバルに差をつけたいんだ!」


「でもためちゃわない?」

「ためない!」


「あ、でもバンドで成功するのはタイプD型の人だけみたい。

 それにあなたの音楽履歴書的に見てもバンドは向いてないわ」


「ちょっ……」


「はい却下♪」


音楽的なセンスも性格診断では組み込まれている。

その他に音楽の成績や詩的なセンス、顔のルックスなどは音楽履歴書に反映されて傾向分析が可能。


音楽に向かないという結果は俺が単にモテたいという

あさましい生物欲求を浮き彫りにしてしまった。


「いいもんいいもん! バイトして自分で買ってやる!」


などと息巻いていたがバイトでもことごとく落とされた。


「タイプAはこの仕事に合わない統計があるからねぇ」

「うちの仕事はタイプAにはあまり向かないよ」

「タイプAの人はちょっと……」


「くそ! どいつもこいつも過去のデータばかり見やがって!」


バイト求人誌で唯一「性格診断書不要! アットホームなディストピアです」の文句を見つけて応募。

性格診断書がなければ俺だって……。


「ユー、落選」


「え゛っ。なぜですか!? 性格がタイプAだからですか!?」


「性格診断書は見てないよ。求人にもそう書いていたでしょ?」


「だったらどうして!」


「君の人生経歴書を読んだからだよ。

 君みたいに友達が少ない人間は職場でも馴染めないと

 統計データが取れているからね」


「それがどうしたっていうんですか!

 俺はここで働きたいんです! 働かせてください!」


「馴染めないとすぐに辞める傾向データが取れているんだよ。

 それに君を入れると、職場の空気が重くなるという予測値も取れているし」


俺はついに我慢の限界が来てしまった。


バイトの面接店長とを隔てていた机を飛び越え、

広げられていた履歴書や経歴書などあらゆるデータをビリビリに破いた。


「なにが統計だ! なにが経歴だ! 性格がなんだ!

 俺は今この瞬間にも変わっている! 多くのことを吸収して変わってるんだ!

 こんな古い過去のデータや分析結果で俺を判断するな!!」


店長はあまりの予想外の行動にぽかんとしている。


「俺がこんなことをすると予想できたか!? この紙切れに書いているのか!?

 俺を見ろ! 今の俺を見て判断しろ!! 俺はここで働きたいって言ってんだーー!!!」


俺が叫ぶと周りの壁が風で吹っ飛び、周りにいた人が立ち上がって拍手を送った。


「おめでとう」

「おめでとう」

「君のような人を待っていた」


「こ、これは……!?」


店長は自分の顔を覆っていた人皮マスクをべりべりと破る。


「君には黙っていたが、我々はバイトの体を装って同志を探していた秘密結社。

 なんでもかんでも書類やデータに頼る今を破壊したくてね」


「そうだったんですか!?」


「君の言うとおりだよ。履歴書や経歴書、性格診断で何がわかるのか。

 その結果は所詮過去のあるタイミングでの分析にしか過ぎない。

 我々と一緒に人の顔を見なくなった今の世界を壊さないか?」


「ぜひ協力させてください!」


タイプAは本気を出すと手がつけられないほどの集中力を発揮する。

自分の力がフルに生かせた時、世界を変革しうる影響を及ぼすという。


かくして俺は現代の性格診断システムをF5キー連打により破壊に成功した。


「やったぞ! これでもう性格や経歴などで差別されなくなるぞ!」


最初はただモテたいだけだった。

結果として人がデータによる差別を取っ払うことができてよかった。


すべてを終わらせて、俺はもう一度彼女に告白した。


性格診断も彼氏履歴も人生経歴書もない。

ただ等身大の自分で勝負に出た。


そしてついに……!!



「無理。絶対付き合わない」



俺はフラれた。


「なんでだよ!? もう過去のデータでは判断されなくなったのに!!」


「だってあなたみたいな見た目の人、見るからに暗そうじゃん。

 付き合っても絶対つまらなそうな顔と体型しているから無理」


俺は叫んだ。


「人を見た目で判断するなぁぁぁぁ!!」

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