冒険者復活保険~彼はいかにして保険金を受けとることができたか~

春成 源貴

プロローグ

 気が付いたときには手遅れだった。

 赤黒く輝く鱗の、鈍い輝きが視界いっぱいに広がり、次の瞬間、男は構えた盾ごと吹き飛ばされ、でこぼこした岩壁に叩きつけられた。鱗の塊の正体が、小型のドラゴンの尻尾だと気が付いたときには、全身に走る激痛のために意識が遠のきそうになっていた。

 別の男の雄叫びと、金属がぶつかり合う甲高い音。切り裂くような女の子の悲鳴が上がる。

 細身の剣を杖代わりしてすがるように立ち上がる彼に、苛ついたように長い鞭のような尻尾を振るドラゴンが悠々と近づいていく。

 わずかな間にぼろぼろにされたパーティは、彼を残して動けなくなったようで、あたりに聞こえるのはドラゴンの不気味な呼吸だけだ。

 意を決した彼は、杖代わりにしていた剣を振り上げると、残された力を振り絞って雄叫びを上げながら飛びかかった。しかし、ドラゴンが人間の二倍ほどの頭部を振り乱し、牙をむきながら大きく口を開いたのも同時だった。

 振りかぶった剣は振り下ろされることなく、男の身体はドラゴンの大きな上顎と下顎の間に収まった。首から提げていた鎖は、鋼の鎧ごと千切れ飛び、激痛を感じる間もなく、男の意識も飛んでしまう。それを確認したドラゴンは、お腹が空いていたわけではなかったようで、シロの身体をぺっと吐き出した。

 シロは力尽き、死んでしまった。

 これ以上はないくらい、冒険者としては理想的に、完璧に。


 こうして、拠点にしていた街から徒歩一日の距離にある山麓の洞窟で、彼、シロ・アマダのパーティは力尽きて戦闘不能に陥った。

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