東の日記

@azuma123

十七月三日

 本日は斉藤と会った。斉藤は体重一トンの人間である。生まれた時から三百キロあった彼は、生まれながらにして孤児となってしまった。母の身体がもたなかったのだ。出産予定の三日前に彼の母は内部から四散して死んだ。母の身体を抜け殻のようにして内側から現れたのが斉藤である。父は斉藤を一目見るなり、家から逃げ出してしまったようだ。だから彼には名前というものがない。彼は生まれてこのかた「斉藤」であり、苗字のみで生活している。

 斉藤はよく飯を食う。わたしが注文したのはハンバーグカレーであったが、カレーの注文が出てくる前に彼は店内にある机や椅子を全て食ってしまった。やめなさいよとたしなめるも時すでに遅く、店内はわたしの使っている机、椅子の一対だけをの残しがらんどうになってしまった。店主がわたしの注文たハンバーグカレーを持ってきて、「おい、どうなってんだ」と怒り心頭の声を出す。斉藤はもじもじしながら無言で突っ立っている。わたしが「すみません、こいつが」と斉藤を指さし弁解を行おうとしたところ、店主は突然カレーに乗っかっているハンバーグをわし掴み、わたしの口に突っ込んだ。それから、モゴモゴと窒息しているわたしの頭をげんこつでぶん殴り、無言で厨房に戻っていった。ひとつもいいことがないなと思いながら必死でハンバーグを飲みこみ、ただのカレーになってしまった注文の品を食い始める。斉藤は満腹なようで、わたしの前に突っ立ってうとうとし始めた。カレーを食い終わり店を出ようとした瞬間、斉藤はわたしの頭めがけて転倒してきたのだ。居眠りである。斉藤は一トンもあるため、下敷きになると内臓破裂で死んでしまう。まだ死にたくはないため急いで席を立ち、避けた。ところ、最後に一対残っていた、今までわたしが使っていた椅子と机もオジャンになってしまう。うわ、と思い厨房をふりかえると、すでに店主はわたしの背後にいた。「すみません、」と言いかける間もなく店主はわたしの頭をげんこつでぶん殴った。わたしの目の前には一瞬で星が舞い、すでに床に突っ伏している斉藤の上に倒れ込んでしまった。

 わたしが倒れ込んだ衝撃で斉藤は目を覚まし、「なんだよ、起こすなよ」と怒りわたしの頭をげんこつでぶん殴った。本当に、ひとつもいいことがない一日だった。

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