嘘つけゾーマ
なぎの みや
今時の冥府事情
日本でいうところのお盆が終わりに差し掛かり、人間界では「帰省ラッシュによる渋滞」なるものが全国各地で発生しているらしい。――しかしそれは、人間の世界だけではない。
下界のある地方では今、至る所で送り火が焚かれている。そこに生まれた僅かな熱波に乗って、死者の魂が下界よりこの冥府へと一斉に
死者の魂――彼らは
死者が還る場所、冥府。全ての悪しき感情を自戒する、
「列を乱すなよー。この縄から外は歩かないようにー。五列に並んでまっすぐ……あっコラだから縄の外には……待て待て他の奴らもつられてそっちに行くんじゃ――あぁぁぁもう!」
一直線に続く石畳の道の上には、それが見えない程の人だかりが列をなしている。その片隅で癇癪を起こしているのは、『ゾーマ・ビサンエイジ』殿。冥府へ続く
私はこの人ごみをかき分けてゾーマ殿に業務連絡を届けに来たのだが、彼の顔色を見るに、まともに話を聞いて下さる精神状態ではなさそうだった。それはもう、
「ゾーマ殿。
「状況考えろ馬鹿野郎って伝えとけ! そもそもな。今年はなんでこんなに獄卒の数が少ないんだよ……何か聞いてねぇのかニャーナ?」
去年までの状況は、つい先日こちらに配属されたばかりの私には分からない。しかしゾーマ殿の言う通り、これだけの人口密度に対する獄卒――冥府全般の作業に従事する鬼達の数は、一見するとずいぶん少ないようにも見える。
「いえ、残念ながら何も。恐らくですが、西の大陸を受け持つ大型の新衛門府が今年から立ち上げられましたので、多分そちらに人員が割かれているのではないかと」
「んなもん、こっちの知ったこっちゃねぇっつの。あっちは何人も閻魔が常駐してるんだから……だから列を乱すんじゃねぇって言ってんだろうがゴラァ! 問答無用で地獄堕とすぞあぁん!?」
「ちょ、ちょっとゾーマ殿。閻魔たるもの、もう少し気品を持った言動をですね……」
「うっせぇな、お前は俺の母ちゃんかよ。ああ、それともあの日か? けけけ」
「……ノーコメントです」
「ちっ。賢くなりがやって」
思えば初日からそうだった。私が彼の元へ挨拶に伺った時の一言目――
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