自由気ままに更新するSS集

神崎しおん

強気に

 今日は日曜日。外はいい天気で出かけるには最適だ。

 だけど私、サチは出かけずに家でゴロゴロしながらドラマを見ている。

『──全部、本気だぞ』

 画面の中で、主人公の女の子にそう言いながら男の子は、壁ドンをしている。

「ねえねえ、ホノカ」

 隣で座りながら本を読んでいる、女の子みたいな名前の彼氏に私は話しかける。

「なにー?」

「壁ドンって、したことある?」

「ないよ。そういうサチは?」

「ないけど……あっ、そうだ! 今、私に壁ドンしてくれない? どんな感じか気になる!」

「ええー、恥ずかしいから、やだ」

「そう言わずにさー、可愛い彼女からのお願いだぞっ?」

「いやだ」

 ぐぬぬ……そう簡単にはいかないか……かくなる上は。

「それじゃあ、壁ドンしてくれたら、ビターサンダーを買ってあげよう」

 私はホノカが好きなチョコレート菓子で釣ることにした。

「ほーん、ビターサンダーねぇ……良いだろう」

 へっ、ちょろいぜ。

「よし、決まり! んじゃ、そこの壁でやろう」

「はーい」


「それじゃあ、お願いします」

 壁際にスタンバイした私は、今か今かとその時を待つ。

「んじゃ、いきます」

 そう返答したホノカは、おもむろに掛けていた眼鏡を外し──トンッ。

 優しく壁ドンをした。

(あああああ、これヤバイわ。顔近っ。めっちゃ、ドキドキする! しかもホノカ、メガネ外しているから、さらにヤバイ!)

 私は普段、眼鏡をかけているホノカも好きだけど、眼鏡を外したホノカの方がもっと好きなのだ。

 これだけでも十分なのだが、それだけでは、終わらなかった。

(あっ──)

 ホノカは、壁ドンをしたまま、空いていた左手を私の顎に添えて──顎クイからのキス。


 十秒くらい経った後、唇は離れた。

「どう? 満足した?」

 少し微笑みながらホノカは聞いてくる。

「ひゃい……」

「なら良かった」

 ホノカは私の頭を少し撫でてソファへと戻り、読みかけの本を開いた。

 私はその場で、呆然と幸福な余韻に浸るのだった。

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