工房の悪魔
夕辺歩
第1話 所業
怒鳴られる怖さに身構えて縮こまった心で、僕はこれから一体どんな絵を描こうというのだろう――。
実際、この
ミラノに絵画工房は数あれど、こんな青臭い悩みを抱えたまま絵の具を溶いている阿呆は自分くらいのものだろう。そう思うと余計に
「この野郎、エルネスト! 何ちんたらしてやがる!」
リカルド工房の助手の一人、ガルティエロの怒鳴り声が今日も建物を
またか、という兄弟子たちの溜息。ああはなるまい、という同輩たちの
この工房には
兄弟子のヴィットリオはそう肩を
「悪魔の生贄がね。前のは辞めたよ。君もいつまで
悪魔とはもちろんガルティエロのことです。
目下相手には無論のこと強く、噛み付けると見ればたとえ相手が目上であっても平気で噛み付いて
その場にいる者もいない者も、ガルティエロにかかっては嫌味と
誰か一人がガルティエロの犠牲になっている間、他の面々は
「あれで無能なら叩き出せたのにな」
助手の一人、ウーゴのぼやきは皆のぼやきでした。
「変に
エルネストは黙って
ガルティエロの存在ゆえに、工房は年中止むことのない陰口の叩き合いの場となり、より大きな声で先に吠えた者勝ちの、野犬の群れじみた低俗な集まりとなりつつありました。愛想が良いと必ず
目上を目上とも思わないガルティエロの
当然、人は雇い入れた端から辞めて行きました。下塗り、背景、小物や人物の描画、また画材の調達や清掃、食事の手配や賃金の支払い等々、
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