ポーカーダイス

坂下真言

第1話

 コロン、とダイスの転がる音がする。

「ワンペア」

「スリーカードだ」

 俺と対面した男が、トランプの4種類の記号と、10からAまでの刻まれたダイスを転がしている。

「はー負けた……。ほら今夜の飲み代だ」

「おう、サンキューな」

 男が去っていく。どうやら今夜はもうタネが尽きたらしい。

「ジョン、今夜も勝ったな」

 バーのマスターが酒をグラスに注ぎながら言う。

「おかげさまでね。今夜の相手はそこそこに羽振りがよかったからな。思わず追ってしまったがなんとか勝てた」

 ジョンとは俺の事。俺の本名はジョンではないのだけれどだいたいの人間にはジョンと名乗っている。本名を出してしまうと足がつくのでなるべく避けている。

「で、相方の方はどうなんだ?」

 マスターは店の奥に目を向ける。そこには同じようにダイスを転がす二人組がテーブルを挟んで睨み合いをしている。

「おーい、ジェイ。そっちはどうだ」

 ジェイとは俺の相方の名前。ジェイはこちらを見ようともしない。

「最後のダイスロールだ」

 コロン、とダイスが転がる音がイヤに響く。

「おっしゃー! 同じツーペアだけどこっちはキングだ」

 どうやらジェイが勝ったようだ。

「勝ったぜジョン」

「そりゃあんだけ大声出せばわかる」

「まーな! マスター俺にも酒を」

 マスターは頷くと俺と同じ酒をジェイのグラスに注いだ。

「で。二人で今日はどのくらい勝てたんだ?」

「俺は13ゴールド」

「稼ぎはジョンの勝ちか。俺は9ゴールド50シルバー」

「さすが二人でギャンブルを稼ぎにして生きてきたはある」

 マスターはオマケと言いながらチーズの盛り合わせを出してくれた。

「二人がここに来てるおかげで挑戦者という客が寄ってくるからね。お礼だよ」

「悪いね」

「ジョン、このチーズ美味いぞ」

 ジェイは早速チーズを口に運んでいる。俺も一つ摘んで口に入れる。

「ふむ、濃厚な風味と味わい」

「二人共気に入ってもらえてよかった。そこで一つ相談なんだがね……」

「マスターどした?」

 実は、とマスターは近郊の土地で魔物が出て俺達が来る前は結構経営が苦しかったと打ち明ける。

「つまり、俺達にその魔物を退治して欲しい、と?」

「いや、二人ならいろんなところを旅しているのだからハンターの知り合いでも居ないかなとね」

「なるほど。しかし残念だ。俺達にハンターの知り合いは居るが、だいたいが都市の雇われでな。フリーのヤツが居ないんだ」

「そうかぁ……。残念だ」

「だが、俺達ならギャンブラー稼業の片手技にハンターの心得はあるぞ。ライセンスは無いがな」

「ジョン、それは正確じゃないぞ。ギャンブルででっち上げた偽造ライセンスならあるじゃないか」

「まぁそうだが。マスターが求めてるのはでっち上げのハンターじゃなく本物のハンターだぞ」

「えーと、つまりまとめると、二人はハンターもしていると?」

「まぁ実質そういう事だな」

「なんだ、そういう事なら話は早い。ライセンスはどうでもいいからとりあえず魔物を退治してもらえないか?」

「そうだなぁ。じゃあ一つ簡単なギャンブルをしよう」

「そうくるか」

「なーに、ただのコイントスだよ。表が出たら無料で魔物退治。裏が出たら少しもらうものをもらう程度さ」

「おいジョン」

「ジェイは黙ってろ。俺は裏に賭けるぜ」

「じゃあ私は表だな」

 ジェイと目線をあわせて頷くと親指でコインを跳ね上げる。

 そして床に落ちるコインは表だった。

「ジョンに勝てるなんて私は運がいいな」

「ああ、そうだな。じゃあ詳しい話は明日の夜に聞く。今夜はもう宿に行くさ」

「わかった」

「なぁなぁマスター。ジョンのヤツ言ってないけどさ。あのコイン、実はイカサマ用で……」

「ジェイ、余計な事言わないで来いよ」

「へいへい。じゃあ、おやすみマスター」

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