第30話 私設軍隊

「やっぱり、バレたか」


「うおおおおおおお!」

隊員が美鈴に向かって走って来る!

美鈴は隊員の目の前から消える。周りが気付いた時には、三人程が集まっているところに現れた。

しゃがむと、一気にジャンプしながら回転キックをお見舞いする。

着地と同時に一名に馬乗りになり、連続で殴打を繰り返す。

そのまま逆立ちの状態で二人を吹っ飛ばした。いくつかの銃声がし空中の美鈴を弾がかすめる。

かなり距離を取ったところに着地する。


それはあっと言う間の出来事だった。

リーダーが何か叫ぶと同時に、けたたましい音を鳴らしながら大量の雨が降りだした!

西門がスプリンクラーを起動させたのだ。

雨はほんの数秒だった。

雨が止むと同時に美鈴は走り出し、警備隊の最前列目がけてジャンプし飛び込んだ。

空中で美鈴の両手の中では、バチバチと青い光が大きく育っている。

美鈴は着地と同時に濡れた床に掌を叩きつけた。

その瞬間、辺りは凄まじい発光と爆音が轟きわたった。

美鈴が立ち上がると、隊員達は白い煙を身体から濛々と揚げながらバタバタと床に倒れていく。


運よく感電から逃れた隊員が状況を見て唖然としている。

座っているリーダーが声を震わせながら叫んだ。

「お前、今何をしたぁあ!」

「釜崎! 黒山! 出ろ!」


唸り声とともに二人の隊員がゆっくりと奥から出てきた。

デカいってもんじゃない、2mぐらいは余裕である。

装備も、顔に鉄柵のようなヘルメット、肩はスパイク。片方は赤、片方は青色に塗られている。

すさまじく異様だ。

青い男が唸る。

「なんだぁ今のは」

「久々の出番だ。隊長、このねーちゃん好きにしていいんだよな?」

隊長と呼ばれた男は震えながらコクコクと頷いている。


赤い男が言った

「釜崎ぃぃぃ!! 最初は俺が頂くからな!」


青い男が唸る

「黒山ぁ! いや俺だ! こんなご馳走久々だしな、しゃぶり倒してやるぜ!」


釜崎は舌を出し卑猥なポーズを作りながら

「おう、ねーちゃん。俺の方がいいだろぉお、デカいぜぇえ!」

釜崎はねっとり絡みつく視線を美鈴に送り、卑猥なポーズをしている。


美鈴は答えた。こんな輩には慣れている。

「じゃあ遊んでもらうおうか。このクソ×××の×××漏野郎が!」

二人の男体から穢わらしいオーラが熱風と獣臭をまき散らす!


美鈴は艶めかしい視線で釜崎を見つめ

「相手はお前か?」と誘う。


釜崎は唸り声とともに異常な速度で美鈴に向けて走ってくる。

思わずジャンプで避けると片足を掴まれた!

しまった!

「いい脚じゃねぇか!」

鉄柵の間から長い舌が美鈴の足に絡んでくる。


――!

気持ちがひたすら悪い!

頭にガンガン蹴りを入れるが効いていない!

此奴、強い!


釜崎はニタニタ笑っている。


[エル]! パワーアップできる!?

>可能デスガ、スーツノバッテリー残量30%ヲキリマス

いいから早く!

>セービングモード解除シマシタ


美鈴は更に力を足に込め、釜崎のこめかみを蹴りぬいた!

ヘルメットが砕ける。

「俺のヘルメットぐぁ!」

中から剥げた頭とひしゃげた赤い鼻、醜いひげ面の顔が見える

「私を口説くんなら、もう少し場所と言葉に気を使うんだな」


掴まれた足が自由になり、着地と同時に飛び上がる。

[エル]! パワー上げて!

>出力アップシマシタ

空中で足を構え目に見えないほどの鞭の様な速さで延髄に蹴りを入れる!

重い音がフロアに響き渡る!

釜崎が崩れ落ちた。


黒山は釜崎が倒れるの確認すると、ビリビリと凄まじい咆哮をあげた。

その途端、黒山が放ったチェーンの一撃が凄まじいスピードで美鈴の肩に振り下ろされた。

咄嗟に避ける。

痛!

服が破け、美鈴の白い肩とブラの紐が見える。

>破損確認中、一部ノスキンニダメージ。損傷レベル1修復可能


もう! せっかくの服が!


黒山は太いチェーンを頭上で振り回していてなかなか近づけない。

美鈴は思いだした。

西門から渡されたビニール袋を黒山に向かって投げつける。

黒山は思わずビニール袋にチェーンを叩きつけ、中の液体が黒山にかかる。

ビシャっ!

「うほ?」その途端黒山から濛々と煙が発生した!


「うぉぉぉおおおお!」

周りが見えない黒山は色んな方向にチェーンを振り回し始めた。

煙の向こうで美鈴が「おいこっちだ!」と叫ぶ。

黒山は声のする方向へ振り下ろす。

その途端、あたりで鈍いうめき声と、凄まじい破壊音が鳴り響く。

煙は少しずつ消えて黒山にも周りの状況が見えてきた。

美鈴の影がみえる。

「大人しくしやがれ! おらぁあああ!」

何度も重いチェーンを振り落とす。

暫くして辺りが静まり返っている事に気づき、黒山は目を細める。

そこにはチェーンで叩きのめされた釜崎が、白目を開け血だらけで倒れている。


更に残りの隊員も、黒山に吹っ飛ばされてうずくまっていた。

隊長も机が割られ震えながら涙目で見ている。


「この警備。いや軍隊に関しては私が本庁に戻ったら色々聞かせてもらうよ」

黒山は美鈴の意識が隊長に向けている時、またチェーンで攻撃しようとした。


「黒山っていったよな。お前、頭わるいだろ」

「このアマァァァァアアアア!」


[エル]!

>出力全開シマシタ


美鈴は壁に向かって猛然と走り、更に壁を蹴って加速。美鈴が蹴った壁は大きな亀裂が走っていた。

黒山の顔面に強烈な膝蹴りを叩き込む。

そのまま着地するや否や、美鈴の手が青く光りだす。

黒山の腹を前に、美鈴は中国拳法の掌打を凄まじい電力と共に打ち込んだ。

『ぐぎゃ』と小さな声が漏れ、口と頭からから白い煙が立ち上り、黒山が膝から崩れた。


美鈴はくるっと振り返ると隊長と目があった。

隊長はガタガタと震え、涙目で激しく首を横に振っている。

尋常ではない超人的な体術を目の当たりにしたのだから仕方が無い。

美鈴は隊長に近づくと「ごめんなさいね」と耳元で囁き、小さな破裂音と同時に隊長は気絶してしまった。


西門が走ってきた。

「素晴らしい! 完全に使いこなしていますね」


西門が警備室の中を伺うと隊員二人と目が合った。

恐らく通信担当だろう。首にはヘッドホンがかかっている。

既に手を挙げて降伏のポーズをしている。

西門は美鈴に声をかける。

「ちょっと中を調べますか」

美鈴と西門は警備室のドアを開け中に入り部屋を調べる事にした。

先程まで手を挙げていた隊員達を機材の上からどかし床に寝てもらった。


監視カメラの制御室と仮眠室があり、小さな階段を下ると私設留置所があった。

隊員全員の所持品を衣類も含めすべて脱がし、パンツ一丁のまま全員留置所に運び、

使えるもの以外は全て、ダストボックスに放り込んだ。


美鈴は破れた服を見ながら、あることを思い出した

田中のことだ。ベットには寝てもらっているが、ガウンを着ているとはいえ、

彼女は真っ裸で周りには縛られた男たちを放り込んでしまった。

大丈夫だろうか。少し心配になった。

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