第207話 王都エスファ

 時は少し遡り、敬太達とギルドの職員達とが崖の砦で会談をしていた頃。


 ルシャ王国の王都エスファの冒険者ギルドに新しい依頼が舞い込んできていた。

 それは王都でも珍しいプラチナランク以上の指定がされていて、報酬の割には難しそうな仕事内容のものだった。


 いかに人口が多い王都とはいえプラチナランククラスとなると数える程しか存在せず、一攫千金を成した彼らには金貨300枚程度の報酬は安い部類に入ってしまうだろう。その為、この依頼は塩漬け案件になるかと思われたが、そこへタイミング良く1組のPTが冒険者ギルドへと入って来た。


「おい!ネル。ちょっと休みにしないか?流石に今回のダンジョンは長かっただろ?」

「う~ん、そうなんですけどね。今日出来上がってくる予定のドカの鎧代でPT資金が無くなっちゃうんですよね」

「なんか、すまねぇな・・・」

「いや、ドカは悪くねえよ。貧乏でブラックなPTが悪いんだ」

「それじゃあ、依頼を受けるってのはどうかなー」

「なるほど、依頼を受けて体を休めるっては良い考えですね。ポカリもたまには良い事言うじゃないですか」

「まあねー」


 この冒険者ギルドの納品カウンター前で話をしているのは、男3人、女2人の男女混合PTで、編成が前衛ばかりに偏っている事から実力的にはミスリルランクはあるのだが、その下のプラチナランクに甘んじてる者達だった。


 普段は王都にあるダンジョンに潜り、そこで得た素材を売って生活をしている為、滅多にギルドに顔を出さないが、今日はたまたま用事があって戻って来ていたようだ。


「おい!これなんかいいんじゃねえか?マシュハドなら1か月ぐらい馬車に乗って休めるだろ」

「う~ん、金貨300枚ですか・・・」

「確かに安いけどよ、たまにはこうしてゆっくりするのも悪くないだろ?」

「そうですね~、リコはどう思います?」


 ここでPTリーダーのネルが、教会で修道女シスターをしていたという遍歴を持つ回復役、リコに意見を求めた。


「私は賛成です。日々ダンジョンへと潜り強くなることも大事ですが、時には心の洗濯をする事も大切でしょう」

「流石!修道女シスターだ。話が分かるな!」


 マシュハド行きを提案した斥候役であるポリフが、リコが賛成した事に嬉しそうな顔をしていた。

 

「分かりましたよポリフ、依頼料がちょっと安いですが受ける事にしましょう。ドカとポカリもそれでいいですか?」

「構わねぇ」

「ちょっと待って!依頼内容はー?」


 ここで大戦士であり、ポリフの妹でもあるポカリから当たり前すぎる突っ込みが入った。


 ダンジョンで生計を立てている者達にはありがちな事なのだが、このPTも例外では無い様で、ギルドの依頼を下に見てしまう傾向にあった。


 四六時中モンスターと対峙しなければならない環境のダンジョンに、長い時だと1か月ぐらい籠っているので、脳みそまで筋肉になってしまうのか、冒険者ギルドの事は「換金所」ぐらいにしか思ってないし、依頼なんかは「お使い」としか思ってないのだ。


「なになに、『ゴーレム使いの捕獲』だとよ。かっ!シケた依頼だな」

「うん、まぁそんなものでしょう。問題ないですねポカリ」

「そうだねー。ゴーレムならいくらこようと、私らの相手にはならないねー」 


 前衛が3人と斥候と回復という偏っているPT。バランスは悪いがその分尖った強さがある。例えるなら、飛んでいる様なモンスターには手も足も出ないが、その代わり接近戦なら滅法強いといった所だ。

 超一流な遠距離攻撃が出来る魔法使いとかならばともかく、ゴーレムのような愚鈍なものの相手は彼らの得意とするものだった。




 ギルドの職員に感謝されながら、ランク指定されていたゴーレム使いの依頼を受けた一行は、注文していたドカの新しい鎧を取りに行く為に街中を歩いていた。


「マシュハドは西の端になるので、道中たいした街はないと思います。なので、しっかりと準備だけはしておいて下さいね」

「ネルー、1か月ぐらいだよねー?」

「そうですね。それぐらい見ておけば問題ないと思いますよ」

「よし、ドカの鎧受け取ったらドド商会行って買い物して来ようぜ」

「いいな、儂も酒を買わんとなぁ」

「楽しみだなー」

「みんな、遊びじゃないんですよ!まったく。ほら、着きましたよ」


 皆でワイワイと話ながら歩いていたらあっという間に着いた様で、目の前には沢山の武器や鎧がずらっと並んだ一際大きな店舗があった。


「ビグニー!いるかー!」


 そんな大きな店舗にも関わらず我が物顔で店に入って行くドカ。

 そして、その後をPTメンバーがゾロゾロと付いて行く。


「なんだ、誰かと思ったらドカか」

「久しぶりだなビグニ。近々出掛ける事になったんで取りに来たわぃ」


 鍛冶師のビグニと大剣使いのドカは同郷の知り合いであり、同じ様なずんぐりむっくりとした体形をしている。


「例の奴は出来とるぞ。ささ、皆も中に入って見てってくれ」


 そのおかげもあって、王都で一二位を争う鍛冶師の店を馴染みにし、気軽にやって来られるという訳なのだ。


「おい!ドカの鎧が裏に置いてあるから持ってこい!」

「へい!親方」


 広い店の中に入ると、いつものように商談室みたいな所に通され、慣れた様子で店員がお茶を淹れてくれる。


「今回は俺の自信作だ。ちとドカには勿体ねぇ気もするが、約束だからな」

「ほほぅ。お前がそこまで言うとは珍しいなぁ。こりゃ期待が出来そうだ」


 皆でお茶を啜りながら、ビグニとドカが談笑をしていると「トントン」と部屋がノックされた。


「入れ!」

「へい!失礼します。お待たせしました」


 ノックをした店員がゆっくりとドアを開け、慎重に部屋の中に運ばれて来たのが、銀色に黄色が入った鈍い輝きを放つドカの新しい鎧だった。


「「「おおーー」」」


 それはミスリルより硬く、最高峰の素材として広く知られ、その独特の輝きは見る物を唸らせる力があった。


「どうだ、これがで作った俺の自信作だ!」

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