第203話 想定外

 ウサギの子、リンの感情が爆発してしまったので、気持ちが落ち着くまで待ち、泣き止んだ所で皆で地上へとやってきた。

 

 リンは泣いたのが恥ずかしくなってしまったのか、少し俯いてテンシンの後ろに居るが、鋭い目つきがなくなり、敬太としっかり目を合わせてくれるようになったので、心の距離が縮まったと思いたい。


 今日はもうゆっくりして、リンとの交流を深めたい所だが、敵は待ってくれないので、いつもの様に【亜空間庫】から今日の分の敷鉄板を500枚取り出したら、早速作業に取り掛かる事にした。


 モーブが積み重なる敷鉄板に「ゴーレムの核」を埋め込みアイアンゴーレムを作り、作られたアイアンゴーレムは自分で歩いていき、壁に到着するとドロリと溶けて変形し、壁の一部となる。そして、壁になったアイアンゴーレムの核を子供達が長押しして抜き出す。「ゴーレムの核」が手元にある程度溜まったらモーブの元へと持って行く。


 流石に、作業から1週間も経つと手慣れたもので、完全に作業の流れが出来上がっていた。そこに敬太が入り込む様な余地すらない感じだ。


 だが、壁の方は思ったよりも進んでいなかった。


 今まで朝に敷鉄板を置くとダンジョンの中に籠って作業をしてしまっていたので、壁の進行状況をちゃんと把握していなかったのだが、1週間経ってもまだ正面の壁を作っている状況なのは少し遅れている様な気がする。


 単純な四角い壁なので、1か月で作るとしたら1週間で一面は作れてないといけないだろう。


「モーブ。もう少し枚数増やしても大丈夫ですか?」

「うむ。子供達も良くやってくれてるから大丈夫じゃぞ」

「それじゃ、もうちょっと追加しますね」


 いざ追っ手がやって来た時に「壁の間が空いてます」なんて事になったら壁の意味がなくなってしまうので、ここはモーブ達に頑張ってもらうとしよう。


 敬太は追加の敷鉄板を買いに改札部屋へと戻って行った。





「ケイタ、残高不足だシン」

「うぇ!」


 いつものようにタブレットを使い、ネットショップで敷鉄板を500枚を購入しようとしたのだが、ダンジョン端末機ヨシオから待ったの声が掛かってしまった。

 

 それは、実家で父親の介護をし夜勤の仕事をしていた頃は毎月確認していて、常に身近にあったものなのだが、ダンジョンへとやって来て小金持ちになると、商品の値段を見ないで買うオジサンになり、そこから進化して残高確認しないオジサンへとなってしまっていた敬太にとっては想定外の出来事だった。



残高 21,467,322円



 約2千万円。

 敬太の記憶が確かならば1週間前には2億強の残高があったはずのだが・・・。


 特に魔法やスキルは買ってないし、大きな買い物もしてないので、ここまで残高が減ってしまう事に心当たりがない・・・いや。


 敬太は慌ててスマホを取り出し、電卓機能で計算を始めた。


 敷鉄板は1枚81,000円でそれを1日500枚・・・4050万円。

 更にそれを1週間・・・2億8350万円。


「あっ・・・」


 今更ながら、壁を作る敷鉄板でかなりの額を使ってしまっている事が判明した。


 1枚8万円でも数が増えれば額も増えるのだ。

 その上、ソーラーパネルも作ったし・・・。

 お金が無くなるはずだ。


 壁の正面を作っただけでこの値段なので単純計算すると壁を完成させるのに12億円ぐらいかかってしまう事になる。

 安全を手に入れる為なら値段は気にしないと言いたい所だが、今回は時間制限があるので、そうも言ってられないだろう。

 今の所ダンジョンで1日あたり1千万円ちょっと稼いでるはずだが、それでも120日分の稼ぎが必要になってしまうのだ。3週間後ではとてもじゃないが間に合わない。


 これは色々と計画を変更しなくちゃいけないな。


「ゴーさん。とりあえず壁を薄くしていいから、先にぐるっと囲ちゃって、後から壁に厚みを付ける事って出来る?」


 傍らにいるゴーさんに壁の建設変更が可能かどうか聞いてみると、敬太の頭の中にイメージが流れ込んできた。久々のゴーさんのスキル【通信】だ。


 それによると、それ相応の数の「ゴーレムの核」を使えば今からでも壁を動かし、どんな形に出も変えて見せる、という事らしい。


「それじゃあ、高さも大丈夫?一旦今より低く作って、敷鉄板が買えたら高さを上げて行く感じ」


 敬太が追加で質問を投げかけると「任せておけ」と言わんばかりにシュタっと敬礼ポーズで返してくれた。

 



「モーブ、ちょっと待って下さい。計画変更です」

「うむ。どうしたんじゃ」


 敬太は急いで地上へと戻って来るとモーブに残高が足らず壁の建設を変更しなければならない事を説明した。


「うむ。しょうがないじゃろ、出来る範囲でやればいいんじゃ」

「そう言ってもらえると助かります」


 相変わらずモーブの懐は深く、壁の防御力が低くなってしまう様な急な変更を簡単そうに受け入れてくれた。

 何事にも慌てず、どっしりとしていてくれるモーブにはいつも助けられてばかりだ。



 敬太は離れた場所にいた子供達を呼び寄せると軽く事情を説明し、【亜空間庫】から全てのゴーレムを取り出して、壁の仕様変更を開始する事にした。


「それじゃあ『ゴーレムの核』を全部壁に埋め込んじゃって!」


 敬太が号令をかけると全員が動き出した。

 モーブと子供達は壁にありったけの「ゴーレムの核」を埋め込み、10合体ゴーレム、5体合体ゴーレム、アイアンゴーレムと敬太の【亜空間庫】に入っていたゴーレム達もドロリと溶けて壁と一体化する。


 流石に壁の大きさに対して「ゴーレムの核」の数が少なかったようで、壁の一部だけが溶けて動き出し、横に伸びて固まると、また別の一部分が動き出す、といったように、壁の中で「ゴーレムの核」の位置を変えているようで、徐々に壁が横へと伸びて行った。

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