第190話 ハイポーションのチカラ

「うぅ・・・ぐっ・・・ふぁあああああああああ!」


 ハイポーションを飲んだ所を、敬太達が見守っていると、ウサギの子は苦しそうに顔を歪めだし、暫くの間、体をモジモジとさせていたのだが、最終的には大きな声を出し始めてしまった。


 父親に使った時もそうだったが、ポーションよりも大きな効果がある為か、より強いを感じているのだろう。


 体の中に流れ込み、五臓六腑に染みわたる様な熱さ。

 グググっと体の底から力が湧き上がってくる様な熱さ。

 

 ポーションならば「うおおお」ぐらいで済むのだが、ハイポーションともなると、こうなってしまうのかもしれない。


 敬太はあまりの声の大きさに少し引いてしまっていたのだが、チラリと子供達の様子を伺うと、好奇心丸出しの顔をしてウサギの子を見つめていた。


「ああー」

「おお・・・」


 だからなのか、クルルンとモーブがいち早く変化に気が付き声を上げた。


 釣られるようにして敬太もウサギの子に目を向けると、確かに凄い変化が起こっていた。


 噛み千切られ、肉が削がれ皮に穴があいている場所からサラリとした薄い色の血が溢れ出したと思ったら、干からび干し肉の様になっていた筋肉が瑞々しさを取り戻し、蠢き盛り上がり始め、逆再生を見るかの様に皮が穴を閉じて行く。

 骨が見えていた二の腕も、大きく皮が失われていたふくらはぎも、穴が開き奥歯が見えてしまっていた頬も、体中の全てが魔法にかかったように元通りになっていく。


 敬太もモーブもクルルンもテンシンも。全員があっけにとられ、驚きの表情でその様子を眺めている。




「ぐうううう・・・」


 そして、ウサギの子の呻き声が小さくなった頃には、ドス黒くなっていた前腕部分も、血色が良い肌色に戻り、最早、怪我などは何処にも見当たらない状態となっていた。


「なんか・・・凄かったですね」

「うむ。まさかここまで治ってしまうとは思っとらんかったわ」


 ウサギの子は、体中から薄い色の血を溢れ出させ、少し身を捩ったりしたもんだから、ベッドの上には血が飛び散り、結構な惨状となってしまっていた。だが、その上で穏やかな顔をし、寝息を立て始めたウサギの子を誰も起こす気にはならなかった。


 あれだけの怪我を早送りを見る様に治してしまったのだ。相当の体力を消耗したのだろう。






「どうです、モーブも使ってみます?」


 みんなで改札部屋へ戻るとお昼ご飯の時間になっていたので、デリバリーで食事を済ませ、食後の一服をいれている時にモーブに冗談半分で聞いてみた。


「うむ。・・・そうじゃな。返せる物は無いが、余裕があるならば使わせて欲しい」


 しかし、帰ってきた答えはかなり真剣なものだった。


 モーブが肘から先が無い右腕の事を気にしているのは分かっていた。時たま見せる寂しげな仕草や、ウサギの子を見る何とも言えない表情からも読み取れていた。だが、ここまで強く望んでいたとは思わず、真面目なモーブの返答に提案した敬太の方が驚いてしまった。


「【亜空間庫】・・・どうぞ。余裕があるので遠慮も見返りもいりません。飲んでみて下さい」

「うむ。恩に着るぞケイタ」


 だからと言って、モーブに渡すのを渋る気持ちは1mmも無かった。

 先程のウサギの子の治る様子を見た感じだと、可能性があるような気もするし、きっとそれはモーブも同じなのだろう。それにハイポーションを一気に32本も手に入れたもんだから、ありがたみが薄れてしまい、1本ぐらいなら実験的に使って失敗した所で何の問題も無いというのが正直な所だ。


 ハイポーションを受け取ったモーブは座っていた椅子から床に腰を降ろし、胡坐をかいてから、敬太が見分けが付くようにマジックで書いた小瓶のレ点を見つめ、グイっと一口で飲み干した。

 ウサギの子のように腕から血が溢れ、気を失ってしまう事を気にして床に座ったのは流石モーブと言った所だが、失った腕には何の変化も訪れなかった。


「うぐぐぐ・・・ふぅ。ダメじゃったか・・・」

「そうですか・・・」


 モーブと敬太の大人2人は期待してしまった分落胆もしてしまい、微妙な空気が改札部屋に流れる。


「済まんかったのぅ・・・」

「いえいえ、大丈夫ですよ。まだ沢山持ってますし、それにこれからハイポーションより強い『エクスポーション』っていうのも狙ってますから、気にしないで下さい。な、なあヨシオ!」

「・・・そうだシン。ダンジョンの先に進めば『エクスポーション』はあるだシン」


 そして、そんな空気が嫌だったので「ダンジョン端末機ヨシオ」を話に巻き込んでやった。


「それってどれぐらい先にあるんだ?いや、具体的に何階層なんだ?」

「それは教えられないだシン」


 しかし、ヨシオの方はそんな空気にも負けず、相変わらず情報の線引きはしっかりとしていたのだった。

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