第189話 濃いワイン色

 しばらくゴルと一緒にまったりとした時間を過ごしていたのだが、ふと、物置の取っ手の上の黒い四角の部分が点滅しているのに気が付いた。


「よっこいしょ」


 敬太は腰を上げ、光っている物置に向かう。

 朝4時にリポップしたモンスターを倒して回ると、毎日ポーションとマジックポーションが届くので、それらの回収作業をやり忘れていたらしい。

 

「ピッ」


 毎日の作業感を出しながらススイカ(改)をタッチして物置の戸を開く。

 2畳程の広さがある、一般家庭にもありそうな物置。その床に小さなリップクリームぐらいの小瓶が並んでいるのだが、その数がやけに多い。

 いつもならば、ポーションが10本前後とマジックポーションも10本前後ぐらい。日によって多少ばらつきがあるが、全部でだいたい10本~30本ぐらいの範囲で収まっている。だが、今日はパッと見ただけで50本はありそうなのだ。


「もしかして・・・」


 敬太は何本か手に取ってみて、見比べてみると、やはりちょっと色の濃い物が混ざっていた。


 ワイン色のポーションより色が濃い物。念の為【鑑定】を入れる。



『鑑定』

ハイポーション

回復(中)

飲み薬です



 やっぱり「ハイポーション」だ。

 見た目的にはポーションより少し色が濃い程度なので見分けがつきにくいが、間違いなかったようだ。


 敬太は慎重に物置に置いてある小瓶一つ一つに【鑑定】をかけていき、しっかりと種類ごとに分けて行った。すると、ポーションが11本、マジックポーションが9本、そしてハイポーションが32本もあった。


 11階層と12階層を殲滅させたときは何も届いてなかったので、間違いなく今日やったチー牛が落とした物だろう。




「モーブ!」

「うむ。どうした?」

「やっと・・・やっと拾えました!」


 敬太はポーション類の整理が終わると、すぐに改札部屋を飛び出して、ダンジョンの外で畑仕事をしているモーブの元へとやって来ていた。


「そうか・・・。それは、余る程余裕があり、何も求めないのじゃな?」

「はい、そうです!是非あの子に飲ませてあげて下さい!」

「うむ。分かった。クルルン!戻るぞ」

「はーい」


 モーブはすぐに状況を理解したらしく、素早く行動に移ってくれた。


 本当ならば敬太の手で自ら与えてやりたい所なのだが、ウサギの子は人間嫌いらしく酷く嫌われているので、モーブに頼むしかないのが現状だった。


 乗って来たモトクロスバイクを【亜空間庫】にしまい、ハードシェルバッグから飛び出たゴルも伴って、みんなで改札部屋へと戻った。




 改札部屋へと戻ると、すぐにウサギの子にハイポーションを飲ませたいところなのだが、敬太が「飲むところを見たい」と少し我儘を言ったので、先にモーブ達がウサギの子が寝ている寝室に入っていき事情説明をしてくる事になった。


 敬太的には、ハイポーションが本当に効くのか?、欠損に近い状態の手足が元に戻るのか?と、その辺が気になり自分の目で確認したかっただけなのだが、モーブ曰く、しっかりと誰が施してくれたかを覚えさせるにも現場にいた方がいいだろうという事で、当たり前の様に敬太の意見は受け入れられたのだ。


「ケイタ、良いぞ」

「はいはい」


 しばらくすると、寝室から顔を出したモーブから声を掛けられ、敬太も寝室へと入って行く。

 

 寝室の中は、少し独特な匂いがし、病院の病室を思い出させる感じがした。


「いいか、リン。これはそこにいるケイタが持って来たハイポーションじゃ。これを飲めばこの怪我も治り、自分で生活していく事も出来るようになるじゃろう」

「・・・」


 モーブがハイポーションを手に持ち、ベッドに横たわるウサギの子に話しかけると、すっかりと色が変わってしまったドス黒い腕を布団の外に出したまま、首だけを動かしモーブの方を見ていた。

 作り物の様に生気が無くなっている手首には、金属製の輪が未だについており、そこから首と足首にもついたままになっている金属の輪と鎖が繋がっている。

 これは、別に意地悪をして放って置いている訳では無い。敬太が近づくと暴れだすので、今まで枷を外す事が出来ないままだったのだ。


「例え嫌いな相手でも受けた恩はしっかりと覚えておかなければならない。分かるな?」

「・・・」


 前回の様に大声を上げる事は無いが、ウサギの子が敬太の事を見る鋭い目つきは変わらない。


 別に敬太としては、恩だの何だのは求めてない。ただ、拾ってきてしまった責任を感じ治療してやりたいという一心があるだけだ。なので、モーブの話は少し居心地が悪く感じるが、これも異世界の人の考え方なのだろうと黙って聞いていた。


 その後、しばらく沈黙が続いていたが、モーブがしゃがみ込み、寝ているウサギの子と目を合わせると、ウサギの子はひとつコクンと頷いた。


「うむ。じゃあ飲ませるが、リンも零さない様に気を付けるのじゃぞ」


 妙な緊張感が漂うな中、モーブがウサギの子の体を支え、穴の開いている頬の事を考え少しだけ顔を横に向けさせながらハイポーションを飲ませて行った。


 リップクリームぐらいの小さな小瓶なので、普通ならば一口で飲める量なのだが、モーブとウサギの子は時間をかけて、確実に飲んでいる様だった。


 そんな様子を敬太や子供達は固唾をのんで見守っていた。

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