第168話 皮肉
「ひぐっ・・・モグモグ・・・ひぐっ・・・」
敬太はボロボロと涙を流しながら肉を食べているサミーを見ながら、追加の肉を焼いていた。
モーブ達は既に改札部屋に戻り「焼き肉パーティー」はサミーが泣き出してしまったのもあり、お開きとなってしまっているのだが、サミーが泣き止むまで、もしくは食べ終わるまでは、肉を焼き続けてやろうと思っている。
サミーは丸裸で、掛け布団を背中に掛けていたのだが、肉を食べるのに夢中なのか泣くのに夢中なのか。今は掛け布団も背中からずれ落ち、普通に丸裸で泣きながら肉に齧り付いている。
当然、胸などは敬太に丸見えになっているのだが、ここ何日かお風呂に入っていないせいだろう、肩まで伸びている茶色い髪の毛が整髪料を付けたかの様にベタついてしまっているので、魅力が半減してしまっていた。
敬太がそんな下らない事を考えていると、いつの間にやら満足したのか、サミーは肉を食べる手を止めていた。
「もういいのか?」
「・・・いいっす・・・ご馳走さまっす」
なんだか、久々にサミーと真面に会話が出来た気がする。
ここぞとばかりに、あれこれとサミーに聞きたい事が敬太の頭に浮かんできたが、泣き腫らした目を見ると、何も言えなくなってしまう。
しょうがない。
敬太は黙って「焼き肉パーティー」の後片付けを始めた。
「あんたにも、守るものがあったんっすね・・・」
敬太がダンジョン内に出したダイニングテーブルを【亜空間庫】にしまっていると、後ろからサミーの小さな声が聞こえて来た。
「そうだな」
多分、一緒に肉を食べていた子供達の事を見てそう思ったのだろうと、敬太はおざなりに返事をした。
「うちらは、仕事として動いていたっす・・・」
「そうか」
「恥じる事のない、人の役に立つ仕事だと思っていたっす・・・」
「そうか」
「子供が居るなんて、聞かされていなかったっす・・・」
「そうか・・・」
思ったよりもサミーが話しかけてくるので、敬太は片付けの手を止めて振り返ると、泣き止んだと思っていたサミーがまた涙を流して泣いていた。
「なにが正義なんすかね・・・」
それはサミーが自問自答している様に、消え入るような小さな声でつぶやいたものだったのだが、敬太の耳には届いていた。
何気ない若者らしい言葉なのだろうけど、酸いも甘いも嚙み分けてきたおっさんからすると、青臭くちょっと自己陶酔しているように聞こえてしまい、黙っておけなくなってしまう。
「そんなものは、この世に無いんじゃないかな?」
「えっ?」
「『正義』なんてものは、それこそ人の数だけある曖昧なもので、サミーにはサミーの、俺には俺の『正義』があると思う。だから絶対に正しい『正義』なんて存在しないと思うよ」
「はぁ・・・」
「そもそも、『正義』なんてものは、狂った宗教家が自分を正当化する為に作りだした都合のいい言葉に過ぎないでしょ。そんなものは強い者の為にある、まやかしの言葉だ」
敬太が捲し立てると、サミーが驚いた様子で敬太を見つめているのに気が付いた。
だが、敬太は止まれなかった。
「そんなあやふやなものを掲げて、お前らは人の家に攻めて来たんだぞ。分かってるのか?子供達を危険に晒し、人の家の物を勝手に壊して回って、やってる事は略奪だぞ!何が『正義』だ、ふざけるのもいい加減にしろ!」
話している途中でマズイというのは気が付いたが、自分の言葉に興奮しヒートアップしてしまい、止まる事が出来なかった。
サミーがここ数日ハンガーストライキなんて事をしながら敬太を無視し、やっとご飯を食べたかと思ったら「ここの事は知らなかったけど『正義』の為に攻めた」とか言われたので腹が立ってしまい、言葉で攻める事を止められなかったのだ。
「・・・だけどギルドからの依頼だったっす」
「ギルドからの依頼だったら何でもやるのか!?」
「・・・やっるっすよ!」
敬太が攻める様に話をしていたのにつられたのか、サミーの瞳にもチカラが宿り出し、しっかりと敬太を見て反論してきた。
だが、その内容は敬太にとっては信じられない物だった。
与えられた仕事を盲目的に信じ、なんの疑問も持たないまま破壊、略奪行為を実行するらしい。現実世界だとちょっと考えられない話だが、異世界、またはマシュハドの街においてはギルドの依頼は絶対なのだろうか?
「人を殺して来いと言われたら殺して来るのか?」
「当たり前っす!盗賊や犯罪者、賞金首なんかは殺してでも捕らえて、それ以上犯罪が起こらない様にするのも冒険者の務めっす!」
「逃亡奴隷も?」
「依頼があれば殺るっす。野放しにして、罪のない人々が被害に遭うよりかはマシっす!」
なるほど。エンジンがかかってきてペラペラとしゃべるサミーの話を聞いてみると、命が軽く考えられている異世界ならば、それは、間違ってない様な気がして来てしまった。他に被害が出てしまうぐらいならば、さっさと犯罪者は殺してしまう。
魔法やスキルがあり、荒事が身近な世界。
きっと、モーブも似たような考えを持っているんだろうなと、何となく思った。
どっちの考えが良くて、どっちの考えが悪いのか。
まるで「正義」と似たような話だった。
そんな皮肉に敬太はひとり心の中で笑った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます