第165話 門作り4

 お昼ご飯を食べ終えると、怪我のカモフラージュを施して現実世界に戻って、今日もネットサーフィンをする。


 流石に調べ物をし始めて4日目ともなれば、具体的にどの様な門を作り、どうやって作ればいいかってぐらいまでは考えを進めていて、今はその門を作るのに必要な「溶接」について調べている。


 敬太は日曜大工程度ならば知識もあり、経験もあるのだが、日本では資格があるぐらいの専門分野となる「溶接」ともなると話が変わってきてしまう。やり方、質によって、作った物の出来まで左右されてしまうぐらいに重要な作業なので、適当は許されないのだった。


 調べ物を始めた当初は、自分で門を作ろうとは考えておらず、実家の駐車場に業者を呼んで、頑丈な門を作ってもらって、それを【亜空間庫】にしまってダンジョンの入口で放出しようと考えていた。

 その為に、業者の候補を調べ出したり、いくらぐらいかかるのかを調べたり、安くやってくれる所を探したりして時間を費やしていたのだが、そうやって調べている途中で、これは現実的に考えて無理があると気が付いてしまったので計画を白紙に戻す事になってしまった。

 なんせ、長い日数をかけて騒音をまき散らし、門という大きな物が家に作られるのに、それがある日忽然と消えてしまったらご近所さんに良からぬ噂を立てられてしまうだろう。少し想像すれば分かる事なのだが、門の頑丈さしか考えていなかった敬太はその辺の配慮に欠けていたらしく、気が付くのが遅れてしまったのだった。


 ならば、人知れず田舎に土地でも買ってそこで作ってもらえば、とも考えたが、どちらにしろ作業にかかる日数が長くなりそうだし、今の時代、人が関われば何処でやっても情報が洩れる危険性は変わらない気がしたので、依頼するという方法は全て諦める事になった。


 そうして、無駄な時間を過ごしてしまった敬太が、やはり門は自分で作るしかないと考え直し、今改めて調べているのは「溶接」作業のコツの様な物だった。どうやればしっかり出来るのか、どの様な事に気を付ければいいのかを探っていた。


 具体的に言うと、実際に働いている人のブログや、うんちくを語っている動画なんかを見て回り、最低限のやり方を覚えようとしているのだが、動画だけを見ていると自分でも簡単に出来る気がしてきてしまうのが怖い所だった。見るとやるとは大違いなのは分かっているつもりだし、こういう事は実際にやってみないと分からない事だとも理解しているつもりだ。だが、誰かに習う程時間が無いのも分かっている事なのだった。

 

「ふぅ~疲れた。うううぅぅぅ~」  

 

 ここ最近、慣れない調べ物を長時間続けているので眼精疲労が溜まっているのか、目がショボショボとしてきてしまい、それに伴い首や肩辺りも凝っている様な気がしてしまったので、敬太はグッっと腕を上げ背筋を伸ばしていた。


 毎日、ダンジョンのモンスターを狩り、体を動かしているので、すっかり肩凝りとは無縁になったと思っていたのだが、寄る年波には勝てないって事なのだろうか。


 敬太が伸びをしていると、足元で丸くなっていたゴルが遊んでもらえると思ったのか、ぴょこんと膝の上に飛び乗ってきて、敬太の胸の辺りに頭を擦り付けてくる。


「はははっ、よしよし」

「ニャーン」


 仕方が無いので、ゴルのお望み通りに頭を撫でてやると、満足そうな顔をしながら甘えた声で鳴いていた。




 ふと気が付くと、窓の外が暗くなっていたので、慌ててパソコンの電源を落とし、実家を飛び出した。今日は訳あって買い物をして帰ろうかと思っていたのだ。


 最近、すっかりとご無沙汰になっていた行きつけのスーパー。敬太が改札部屋に帰るのが遅れると、その分モーブ達の夜ご飯も遅くなってしまうので、早歩きでやって来ていた。


 いつもは半額のシールが貼られた後の閑散としている時間を狙って来ていたので、仕事帰りの人達がレジで列を成しているのを見ると、違うスーパーに来てしまったのではないかと錯覚してしまう。


 敬太は今や小金持ちとなってしまっているので、賞味期限が迫っている割引品を見つけてから、夜ご飯のメニューを決めるなんてせせこましい事はしない。今日は最初から焼き肉とメニューを決めており、その為の肉を買いに来たのだった。

 

 買い物かごをぶら下げて精肉のコーナーにやって来て、焼き肉セットなんかが置いてある棚を物色する。敬太自身に好き嫌いは無いし、肉の味が分かるような舌でもないので、目に付いた肉をポンポンと買い物かごに放り込んでいく。


 食べ盛りの子供2人に、肉が大好きな獣人のおっさん1人、後は普通のおっさん1人。全員だとどれぐらいの量の肉を食べられるのか想像しにくいが、敬太が6~7人ぐらいで食べられる量の肉を買い物かごに入れていく。足りないよりは余らせるぐらいの方がいいだろう。なんせ【亜空間庫】に入れておけば時間経過が抑えられるので中々腐ったりしないのだから。


 後は味の好みもあるだろうから、焼き肉のタレを各種揃えればいいだろう。

 考え無しにポンポンと買い物かごに商品を入れていたら、あっと言う間に買い物かごが一杯になってしまった。


 たまにはこうして何も考えず買い物するのも楽しいもんだな。


 最早、行列と化してしまっているレジに並び、お会計はススイカ(改)を使って済ませ、そのまま流れる様に袋詰めする台に行き、2つの袋に買った物を詰めていく。


 そうやって、敬太は他の買い物客と同じ様に、買い物袋を両手に持ってスーパーを後にした。


 さあ、今夜は焼き肉パーティーだ。

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