第153話 亜空間庫の使い方2

「パンッ!パンッ!」


 突然、ダンジョン何に渇いた炸裂音が鳴り響いた。

 6人組は知らない音に、警戒し動きを止める。


 この音が何かと言うと、モーブと二人でネットランチャーを撃った音だった。


 ネットランチャーとは、筒の中から広がった網が飛び出し、狙った人に網を絡ませる物だ。1本49,980円と中々の値段がする防犯グッズなのだが、効果は抜群。かなりのスピードで3m×3mの網が広がりながら飛んで行くので、狙われたら避ける事は難しいだろう。


 網が被さり暴れてしまうと余計に絡まってしまう様で、6人組は足を取られ地面に転がり、何もする事が出来ない状態となってしまっていた。


「ふぉふぉ・・・舐めるな小僧・・・【水獄】じゃ!」


 しかし、敬太達から見て一番遠くにいた魔法使いの老人には、網の掛かりが浅かったようで、素っ裸で地面に転がりながらも、網から腕だけを出して魔法を撃ってきた。


「【亜空間庫】」


 しかし、これも想定内だ。敬太は目の前に現れた水の塊を【亜空間庫】にしまってしまった。そう【亜空間庫】には魔法ですらしまう事が出来るのだ。


 これはモンスターと戦っている時には気が付かなかった事なのだが、シルバーランクPTと対人戦をやった時に魔法を撃たれ、それに苦しめられたので、どうにかならないかと考え、思いついた戦法だった。

 自分の魔法で検証し、撃った【火玉】を【亜空間庫】にしまう練習をしてきた成果が、今ここで役に立った訳だ。


「な、なんと・・・」

「マジかよ・・・」

「見ないで欲しいっす」

 

 敬太が魔法に対応している間に、モーブが6人全員と大きな鳥にネットランチャーを撃ち終えていたので、次の作戦に移る。


「モーブ、行きましょう」

「うむ」


 敬太とモーブは撃って空になっていたネットランチャーの筒を地面に投げ捨て、新しい武器を両手に持ち、地面で蠢いている6人組に迫った。


「プシュー」

「バチバチ!」


 行動を封じた後は、制圧だ。片手で催涙スプレーを噴射しながら網に絡まった人に近づき、怯んだ所でスタンガンで止めを刺す。催涙スプレー対策に、モーブにはゴーグルと防毒マスクを付けてもらい、敬太はゴーさんの鎧で空気を遮断してもらっている。

 

「め、目がああぁぁ~~」

「いたたたたっ!けほっけほっ」

「・・・痛い」


 催涙スプレーも防犯グッズで1本6,300円。米軍正式採用の物で、真面にくらうと痛さで動けなくなる程の威力らしい。スタンガンの方は国内最強クラスの威力がある77万ボルトで15,800円だ。こっちも動けなくなる程痛いらしい。


 敬太とモーブで1セットずつ持って回って行く。催涙スプレーをプシューっと吹きかけたら、スタンガンを押し当てバチッ!

 国内最強クラスのスタンガンの音がデカくてビビるけど、直接地肌に当てた威力は凄まじくバチバチッっと2度~3度当ててやると、うずくまったまま動かなくなっていく。

 

「うぐっ・・・ぐぅ・・・」

「うぅ・・・」


 最後に小屋の前でバタバタと暴れている大きな鳥にも催涙スプレーをかけて、静かにさせておいた。


「ギャァー・・・」


 目、鼻、喉と痛みが出て、声が出せなくなる催涙スプレー。効果は抜群だ。

 さて、後は抵抗出来ない内に拘束してしまおうか。


 結束バンドとガムテープを【亜空間庫】から取り出し、モーブにも渡そうと後ろを振り返ると、そこには魔法使いの老人を踏みつけ、鉈を振り上げるモーブの姿があった。


「え、ちょ、モーブ!」


 敬太的には襲撃者を殺す事までは考えてはおらず、拘束したら街の側に捨てようかなぁと思っていたので、モーブの行動に驚き声を上げた。


「ん?どうしたんじゃケイタ?」


 しかしモーブは、鉈をしっかりと魔法使いの老人に振り下ろしてから、敬太の方に視線を向けて来た。一撃で切り離された老人の首がゴロリと転がる。


 よく見ると、既にもう2体ほど首が切り離されているのが、モーブの後ろに見えた。襲ってきた連中に指示を出していたリーダー格とみられる、筋骨隆々の男。敬太に殴りかかって来た、ふくよかなおばさん。そして今しがた、目の前で切られた魔法使いの老人。襲ってきた6人中、既に3人首がない状態になっていた。


 確かに、モーブとはこうやって抵抗出来ない様にするからと打ち合わせはしていたが、その後どうするかまでは話し合っていなかった。

 モーブは殺すのが当然と言ったいつも通りの態度だし、それは、間違いなく一番安全な方法だろう。復讐の心配も無いし、漏れる情報も無い。だが、敬太は未だに人を殺すのに抵抗があって、どうしてもそれ以外を考えてしまう。


「ぜ、全部殺します・・・?」

「うむ。わしはそうして今まで生き残って来たのじゃ」


 説得力があり過ぎる。

 敬太のただ殺すのが嫌だと言う個人的な感情論では到底太刀打ち出来そうもなかった。


 ゴーレム達は壊され、ダンジョンの防衛が手薄になってしまっている今、モーブを説得できる程の殺さない理由が思い浮かばない。



 しかし、モーブが槍を持っていたガタイの良い女の首を刎ねた所を見ていると、大事な事を思い出した。


「あっ、ちょっと一人だけ残してもらっていいですか?」

「どうしたんじゃ?」

「この間、ダンジョンで拾ったあの薬を試したいんです」

「うむ。あれか・・・。なるほどのう」


 ここで思い出したのが10階層のボス的ポジションにいたアメダラーを倒した時に拾った「尊師の聖水」だ。黄色い液体の裏切れなくなる薬。

 拾った時にモーブにも説明していたので、その効果の方は分かってるはずだ。


「うむ。子供に危険が及ばないなら、ケイタの好きにするといいじゃろう」

「多分、思っている通りの効果ならば大丈夫だと思うのですが、その辺は実際に使ってみないと分からないです。でも、まぁその時は何とかしますよ」

「うむ。ケイタもまだまだ若いからな。残すのは女でいいんじゃろ?」


 地面に転がり、首を刎ねられずに残っているのは、大きな盾を持っていた太った男と、弓を持っていた女だけなので、まぁ・・・下心もあり、そうなりますかね。


「はい・・・そうですね」

「うむ」


 敬太が女を残す様に答えると、モーブは太った男の体を踏みつけ、大きく振りかぶった鉈を振り下ろした。

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