第152話 亜空間庫の使い方
敬太は改札部屋で遅くなった食事を済ませると、ネットショップで必要になりそうな物を買い漁ったり、【亜空間庫】に残っていた「ゴーレムの核」を使い、敷鉄板でアイアンゴーレムを新たに作り出したりと、外に打って出る準備をしていた。
「ケイタ。わしも出るぞ」
「モーブ・・・そうですね。お願いします」
すると、モーブも一緒に打って出てくれると言い出したので、少し考えたがお願いする事にした。
相手は6人。敬太にも考えがあるのだが、その上をいかれアッと言う間に追い詰められてしまう可能性は大いにあるのだ。危険でも攻め入る時は最大戦力で行くのが、定石だろう。
「さて、準備はいいですか?」
「うむ。大丈夫じゃ」
「それじゃ、ゴーさんセット!」
モーブとちょっとした打ち合わせを終わらせると、最後にゴーさんとアイアンゴーレムに変形してもらう。すると、ゴーレム達がドロリと溶け出し、プレートアーマーの様になって敬太の体を包み込み、スキル【同期】(シンクロ)を使い、敬太の動きに合わせて動いてくれるので、重さを感じる事のない鎧が出来上がる。
何処かの武器商人の社長の様に空を飛んたり光線を放つ事は出来ないが、それに近い見た目となっているだろう。
「クルルン、テンシン。外に出ちゃダメだからね」
「はーい」
「は~い」
「では、行きましょう」
「うむ」
気合いを入れて、改札部屋の扉を開け、ダンジョンに出ていった。
「ギャァー」
すると、モーブ達の為に建てた小屋の屋根の上に大きな鳥がいて、大声で鳴いたと思ったら、すぐに小屋の中から人が飛び出して来た。
「なんだお前ら?何処から湧きやがった!」
真っ先に、筋骨隆々で青みがかった斧を持つ男が話しかけて来た。
改札部屋の扉は敬太が許可した人じゃないと見る事も出来ないらしいので、突然現れた様に見えたのだろう。
「あなた達こそ何ですか?」
「うわっ!しゃべったっす」
「ふぉふぉふぉ」
「お前がゴーレム使いなのか?」
なんだろうゴーレム使いって。
確かに敬太はゴーレムを使い薬草を採取したり、人を運んだり、ダンジョンを守らせたりしているが、そんなあだ名がついているのだろうか?
「そうかもしれませんが、分かりません」
「えっ?・・・違うの?」
「やっぱりゴーレム使いはもっと下の階層にいるんじゃないの~」
「ふぉふぉふぉ、ならば、ここまで続いていた轍は、お前さんが付けたものじゃ無いのかのう?」
轍か・・・。ジープのタイヤの跡を追って来たのだろうか。
ちらりと横に目をやると、ゴーグルと防毒マスクをしたモーブが、鉈を握り、いつでも飛び出せるように身構えている。
一方、6人組は壁を背にしている敬太達を取り囲むように、徐々に展開していっているが、まだ攻撃はしては来る様子はない。
「轍は、多分私が付けた後です」
「ほら見ろ!やっぱりゴーレム使いじゃねえか」
「ご、ゴーレム使いなんだな」
敬太がゴーレム使いだと判明すると、6人組の雰囲気が変わったのが分かった。
そろそろ来そうだな。
敬太は軽くモーブに目配せをすると、打ち合わせ通りにモーブが1歩後ろに引いてくれた。
「【縮地】・・・【剛打】だよ!」
するとその瞬間、手ぶらでふくよかなおばちゃんの姿が消え、敬太の目の前に現れたと思ったら殴られて吹き飛ばされてしまった。
「くっ・・・流石に固いねぇ」
「サミー、じじい打て!ウラクとマルンは突っ込め!」
「了解っす」
「ふぉふぉふぉ」
「い、行くんだな」
「・・・分かった」
敬太が殴られた勢いで、後ろの壁に激突し、息を詰まらせていると、囲んでいた6人が続々と飛び掛かって来るのが目に入った。
しかし、敬太は焦らない。対人戦はモンスターと戦うのとは違う、完全に対人戦用に戦闘を組み立てなければならないのを知っているからだ。苦い経験を経て、あれこれ考え、ちゃんと作戦を立てて来ているのだ。
「【亜空間庫】!」
敬太は壁に背中を付けながら、腕を前に突き出し、集中して狙いを付けて、【亜空間庫】を使った。
「なんだいこれは?」
「わ、わ~」
「・・・恥ずかしい」
「おいおい、どうなってんだ!」
「キャー、見ないでっす」
「ふぉふぉふぉ」
まずは【亜空間庫】に全てを取り込んでしまったのだ。
6人組の武器、防具、服、荷物、履物全てを。
有効範囲は10~15mぐらいだが、きっちり【亜空間庫】の適応範囲を検証していたので、取りこぼしは無いだろう。
これは、日々敬太がダンジョン装備に着替えるのが面倒だなと思い出した時に発見した裏技のようなもので、【亜空間庫】の命あるものは入れる事が出来ないという縛りを逆に利用したものになる。
事の始まりは、敬太の手に持った木刀が【亜空間庫】にしまわれる事に違和感を感じた所から始まった。手に持つという外部からのチカラが木刀に加わっているのにも関わらず、簡単に【亜空間庫】に入ってしまうのがなんだか不思議に感じたのだ。
グッとチカラを入れて木刀を握っていても、木刀の上に重い物を置いていみても、スッと【亜空間庫】の中に入ってしまう不思議な空間魔法。
そこから敬太は実験を始める事になった。
まずは敬太のチカラが弱いのではないかと思い、モーブにも手伝ってもらって、強く木刀を握り締めてもらったのだが、結果は変わらず木刀はスッと【亜空間庫】の中に入ってしまった。なので、今度は子供達やゴーさん達にも手伝ってもらい、皆でギュギュウに木刀を握り締めていても【亜空間庫】を発動するとスッと手の中から木刀が消えてしまうのだった。
それは、木刀を鎖で雁字搦めにしても、土の中に埋め込んでも、木刀を見る事が出来る状態にある限り、結果が変わる事はなかった。
始めの内は【亜空間庫】に吸い込むチカラがあって、それ以上のチカラで木刀を抑え込めれば【亜空間庫】にしまわれる事がないだろうと考えていたのだが、ここまで色々とやった結果をみてみると【亜空間庫】が及ぼしているチカラは吸い込むチカラでは無いのでは、と思うようになっていた。
【亜空間庫】が空間魔法なのを考えると、及ぼしているチカラは「転移」の様なものではないかと考える様になって来ていたのだ。
そもそも1枚800kgもある敷鉄板を自由自在に出したりしまったり出来るし、アイアンゴーレム達だって数十体単位で出し入れする事だって可能なのだ。それだけのチカラを抑え込む方法が思い付かなかったという事もあるが、それだけでは説明がつかない場面が見られたのも確かだった。
なので、今度は違う実験を始める事にした。
テーブルの上に家の鍵が付いたキーホルダーを置き、鍵だけを【亜空間庫】にしまえるかどうかを試す事にした。キーホルダーのリングに通っている鍵を「転移」のチカラで外す事が出来るのではないかと考えたのだ。
鍵に集中して、鍵だけを【亜空間庫】にしまうイメージを高めていく。
すると、【亜空間庫】に鍵だけをしまう事が出来たらしく、テーブルの上には鍵が外れたキーホルダーだけが残っていた。キーホルダーのリングが壊れている様な事は無く、鍵の方も傷一つ無い状態だった。
この実験で「転移」のチカラを確信した敬太は、それを活用すべく自分の装備の着脱に使うようになっていった。念じれば消える様にパトロールグローブが外れ、モトクロスのヘルメットが外れ、上着だって外れて【亜空間庫】にしまわれていく。
「転移」のチカラを使い【亜空間庫】がかなり便利になっていたのだが、ここで敬太のものぐさな所が顔を出してしまう。
「ひとつひとつ指定してしまう」事も面倒に思ってしまったのだ。そして、それはある考えが後押しをしていた。
命あるものは入れる事が出来ない【亜空間庫】に、服を着た人をしまうとどうなるのだろう?
敬太のイメージ的には、魚の骨を口に入れてしまった時の様に、中の人だけがペッと吐き出される所が浮かんでいた。
服だけが【亜空間庫】にしまわれて、裸の人が取り残される。そんな感じだ。
もし、それが出来れば相当使い道があるだろう。一瞬で装備を脱ぐことが出来るし、対人戦では一瞬で相手を無力化する事が出来る。
敬太は一度、奴隷の女の子に【亜空間庫】を使って、入れる事が出来なかったという事を経験していたので、少しビビりながらも自分で試す事にしてみた。
「えい」と声を出し、自分自身を【亜空間庫】に指定すると、後に残ったのは産まれたままの姿となった敬太だけだった。
思った通り、人そのものに【亜空間庫】の狙いを付けて強引に発動させると、人自体は拒否されるが、それに付随する物はしまう事が出来るようだ。
この実験結果は大きな進歩となり、新しい【亜空間庫】の使い方となるのだった。
そして、襲い掛かろうとしていた6人組は、正にその【亜空間庫】の効果を受け、急に手にしていた武器が無くなり、素っ裸になっしまい、驚き、恥ずかしがり、あたふたしている。
「モーブ、今です!」
「うむ!」
第一段階が上手くいったので、続けて第二段階に移行した。
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