第122話 奴隷側の考え

「モーブ。この子ハイポーション使わないと死んじゃいますかね?前に飲ませようとしたら暴れられたので、まだ飲ませてないんですよ」

「うむ。・・・いや、手足の肉が千切れたぐらいで死にはするまい」

「そうなんですか?」

「うむ。欠陥品として寝たきりにはなるじゃろうがな」


 敬太が見た感じ、奴隷の女の子は死にそうなぐらい重症に見えるのだが、死に近い生き方をしてきたモーブの見立てがそうなら、大丈夫なのだろう。無くなった右肘辺りを摩りながら話すモーブには説得力があった。


「むやみに高価な薬を与えても、その重さに押し潰れてしまうかもしれん。じゃが、余る程持っていて、何も求めないのであれば飲ませてもいいかもしれん。そこまで余裕はあるのかケイタ?」


 ハイポーションは金貨32枚もした高価な物だ。敬太から見てもそこそこの値段になる。それを奴隷の身の者から見れば、どれだけ高価な物に映るのかを想像していなかった。今、黙って飲ませても、傷の具合で気が付き、責任を感じ押しつぶされてしまう可能性もあるという事か。色々と難しいな。

 最悪、1つしかないハイポーションを奴隷の女の子に飲ませ、父親の延命の為の作戦をあれこれ思案し始めていたが、それらは無駄になったようだ。慣れない事はするもんじゃないな。


「順番を履き違えてはならんぞ。まずは父親からじゃろう?」


 敬太が黙っていると、モーブが背中を押す様に正してくれた。

 さすが、厳しい世界で生きている人間は強いな。


「そうですね。その通りです。はぁ、こんなんだからその子に暴れられたのかもしれませんね」

「うむ。それは単に人間嫌いなだけじゃろう。獣人には多いんじゃ、人間嫌いがな」


 え?そうなの?

 助けられるのが嫌とか、薬が高いからダメとか関係なく、単純に人間が嫌だったのね・・・。あれだけ全身全霊で拒否されて、結構傷ついてたのに。


「そうだったんですね。あ!・・・それじゃあ看病が・・・」

「うむ。それぐらい、子供達を使えばいいじゃろ。普段世話になってるんじゃ、構うまい」



 結局モーブの鶴の一声で、子供達に看病してもらう事が決まった。子供達は嫌がる素振りなどまったく見せずに従い、今は改札部屋の扉の脇に作った小屋の中で、奴隷の女の子の近くに座っている。


 異世界の子供達は、小さいのに偉い。




 さて、今のうちに子供に聞かせたくない、最後の土産話をしてしまわなければならない。


「モーブ。もう一つ重要な話があります」

「うむ。中でするか?」

「そうですね。お願いします」


 敬太の表情から読み取ったのか、大人2人だけで改札部屋の中に戻り話を続けた。

 

 ギルドの依頼でゴーレムをばら撒き、そこから足が付いたのか、突然襲ってきた男達を返り討ちにしてしまった事を話した。


「うむ。それで?」

「え?いや、なのでこのダンジョンにも追っ手が来るかもしれないと・・・」

 

 結構ヘビーな話をしたつもりだったのだが、モーブの反応は軽かった。


「それは今と変わらんじゃろ」

「ですが・・・」

「うむ。冒険者なんぞ命を張っている商売じゃ。どこぞの誰がが野垂れ死んだ所で何もあるまい」

「警察・・・いや街の衛兵とか自警団みたいのが動くんじゃないですか?」

「うむ。そんなものは動かんよ。いちいち冒険者が死んだぐらいで動いていたら、いくら人がいようと足らなくなってしまうわい。それに、襲われたのじゃろ?ケイタに非はあるまい。自分の命を守って何が悪いんじゃ?」


 なんだかそう言われるとそんな気がして来た。


「それに、わしもこうして捕まっておらんじゃろう。まぁよっぽど仲がいい友なんかがいた場合は追いかけてくるかもしれんがな」


 なんだよ。追われるかもしれないじゃん。


 なんだかちょっと納得がいかなかったが、結局やる事は変わらないのは確かだった。ダンジョンの防衛を強化し備えるだけか。


 追っ手を必ず殺してしまうモーブの話だと、敬太が街でお尋ね者になっているかどうかは分からなかったが、軽く受け止めてくれたので、告白した敬太の心も軽くなっていた。


 最後に、余裕があれば街で手に入れてくる予定だったモーブの武器を、襲われて逃げ帰って来てしまったので、手に入れられなかった事を報告し解散となった。



 モーブは部屋から出て行き、地上に出て畑仕事の続きをするようなので、敬太は先に風呂に入り、洗濯をしてしまう事にした。数日風呂に入っていなかったから気持ち悪かったのだ。


 タオルを手に改札部屋にあるお風呂場に向かっていると、ふとATMの画面が目に入って足を止めた。


『レベルアップおめでとうございます』


 お、最近レベルの上りが悪くなってきていたので久しぶりに感じる。


『レベルアップボーナス』



ヨシオ音声

駐車場➡ガレージ➡オートリペアショップ

洗濯機置き場➡洗面所➡サウナ

キッチン➡パントリー



 おぉ、こんなんだったけか?前回から随分と時間が経ってて忘れてるわ。

 さ~てどれにしようかな。う~ん、なんだかメンツが弱くないかい?これと言って取りたい物が無いのだが・・・。


 しょうがない、とうとうヤツを呼び出す時が来てしまったようだな。

 今まで、ずっと表示されていたが、ずっと無視し続けていた項目がある。

 その項目とは・・・?


 次回、ついに謎のベールがはがされる?

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