第105話 シルバーランク

 アイン鉱山の麓の森の中に入り【探索】を使うと何個か反応があり、放った「偵察部隊」からも位置を知らせる【通信】が入って来る。伝わって来たイメージを見ていくと、どれもがフォレストウルフだったので、それらの討伐は「実働部隊」に任せる事にした。

 

 【亜空間庫】から右腕がランスに改造してあるアイアンゴーレム、通称「実働部隊」を10体で1グループとし、それを30体程出して、頭の中の地図にある赤い光点1つにつき1グループを向かわせる。


「頼んだよ!」


 敬太が声をかけるとシュタっと敬礼のポーズをしてから「実働部隊」が、それぞれの方向に進んで行った。

 フォレストウルフはカッパーランクの討伐依頼だし、先日「実働部隊」でも問題なく倒す事が出来ていたので任せておけばいいだろう。


 

 敬太はもう少し歯ごたえがあるモンスターを探しに、止まる事なく森の奥深くへズンズンと入って行く。


 今の所【探索】に引っかかるのは全てフォレストウルフだったので、その度に【亜空間庫】から「実働部隊」を取り出して10体1グループで向かわせるだけで、敬太自体が歩みを止める事は無かった。



 そうこうしていると、ようやくゴーさんから合図が来た。敬太の【探索】の範囲外に進んでいる「偵察部隊」が何かを見つけた様だ。すぐに【通信】でイメージを伝えてもらうと、代読少年から教えてもらった通り、シルバーランクの討伐依頼対象のイノシシが見えてきた。


「さて、シルバーランクの討伐依頼か!」


 これまでのフィールドモンスターの手応えの無さからも、期待半分って所で、ゴーレムから伝わってきたイメージの場所に進んで行く。




「プギー!プギー!」


 森の中を歩き、既にモンスターの鳴き声やガサガサと何かしている音が聞こえる位置にまで近づいて来ていた。木々の間からチラリと見える姿はイノシシそのままなのだが、大きさが知っているそれより遥かに大きい。多分ワンボックスカーぐらいはあるんではなかろうか。



『鑑定』

ラッシュボア

短い脚と寸胴に似た体形に見合わない優れた運動能力を持ち

45km/hの速さで走る事が可能である


弱点 真っすぐにしか進めない



 ラッシュボア。相変わらず名前には捻りが無いようだ。結構なスピードで突っ込んでくる猪突猛進タイプのようで、口元には大きく鋭い牙が見える。あれで突き上げてくるのだろう。


 とりあえずはお手並み拝見と行こうかね。


「ゴーさん」


 バングルの状態から素早く鉄の籠手に変形してもらい、ラッシュボアの前に躍り出た。そこから一気に先制攻撃をぶちかまそうかと思ったが、素早く反応してきたラッシュボアに睨まれてしまった。


 なかなか強そうじゃないか、さすがシルバーランクの依頼対象だ。


 すぐに不意打ちをしようと思って飛び出したので、この後の事を何も考えていなかった。おかげで、お互いばっちりと目を合わせたまま、ラッシュボアとお見合い状態になってしまっている。


 さて、どうしようかと考えていると、先に動き出したのはラッシュボアの方だった。まるで考えは不要とでも言わんばかりに、猪突猛進で突っ込んで来る。落ちている枝や生えている草を物ともせず、ガサガサバキバキと音をたてながら一直線だ。

 体の大きさがワンボックスカーぐらいあるので、迫力が凄い。なんだか今から交通事故に遭うんじゃないかと思えてしまう。


 チラリと周りに目をやり、周辺の地形を把握してからあいているスペースに体を飛び込ませた。ぐるんと地面をでんぐり返しし、立ち上がりながら、敬太のすぐ横を通り過ぎていくラッシュボアを見る。まあまあのスピードだが避けるのは容易い感じだ。


 走り出したら止まれないのか、ラッシュボアは人の胴体ぐらいの太さがある木にドスン!と音を立てながらぶつかって、止まった。その際、軽く地響きがし、ぶつかられた木からメキメキという悲鳴が聞こえた。あれは真面に喰らったらヤバそうだ。


 ラッシュボアを見ると脳震盪でも起こしたのか、敬太にお尻を向けたまま動かないでいる。これをチャンスとみた敬太は、すぐさま走り出し距離を詰める。


「【強打】」


 ベチンっと音を立てながら鉄の籠手をはめた拳が、がら空きの横っ腹に突き刺さる。


「プギー!」


 ラッシュボアは痛かったのか、すぐに体を回転させ牙を突き上げてきた。しかし、この反撃は想定内だったので、ちょこんとバックステップをして距離をとって簡単に躱した。


 が、次の瞬間、視界に変化が起こり、何かが地面にドスン!と落ちた音がした。ラッシュボアと対峙していたのだが、あまりの音の大きさに無視する事が出来ず、一旦視線を切ってチラリと見てしまう。すると、さっきまであったラッシュボアが激突した木が倒れているのが目に入った。どうやら時間差で木が折れて倒れた様だ。


 あんなに太い木を突進でへし折ってしまうなんて、思っていたよりラッシュボアは強いのかもしれない。


 敬太は警戒レベルをひとつ引き上げ視線を元に戻した。

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