第101話 報告

 モトクロスバイクのエンジン音を辺りに響かせながら、ソフト川沿いを疾走する。パパパーンっと独特のエンジン音が辺りに木霊する。まだ朝早い時間なので誰に合う事は無いだろうと思いながらも、先日の北門での出来事が頭にちらつくので、スキル【探索】を使い辺りを確認しながら走っている。


 コンテナハウスを置いた場所はソフト川の上流の方になるので、街に入るには北門が近い。だが、また何か門番にゴネられては堪らないので、顔を覚えられてるであろう北門は避け、南門まで街を回る様に進んだ。モトクロスバイクに乗れば大した距離では無いので、リスク回避の為に遠回りをする。


 街の壁が遠目に見えてきた時点ですぐにバイクを降り【亜空間庫】にしまった。

 人目に付いて没収されるといった同じ過ちは犯さない様にしたい。


 バイクを降りてからは草原を走り、駆け足で南門までやって来のだが、門番には何も言われず、簡単に街に入る事が出来た。北門から情報が回り、いちゃもんでも付けられるかと身構えていたのだが、肩透かしを喰らった気分だ。



 朝の冒険者ギルドに入るとかなり混雑していた。カウンターには列が出来ていて、壁に貼られた茶色い依頼書にも冒険者風の人々が群れを成している。


 敬太は朝のラッシュに少し気後れしながらも、一番短い列に並んで順番を待った。


「次の方ど~ぞ」


 しばらく列に並んでいると、サイドテールで髪をまとめた少しおっとりした感じの女の職員が敬太の順番になった事を知らせてくれた。


「報告になります」

「はいど~ぞ」


 敬太が受けていた「ソフト川の魚が急に減ったので、原因を調査して解決する」という依頼書をカウンターに置くと、サイドテールの職員はちらっと敬太の胸元にある認識票を見てから依頼書に目落とした。


「やっぱりだめでしたか~?」

「いえ、多分解決できたと思うので確認をして欲しいのですが」

「えっ!すいません。新人の方だったので諦めたのかと~・・・」


 アイアンランクの上のカッパーランクから下げられていた塩漬け案件だったので、そう思われても仕方が無いのかもしれない。


「ソフト川上流にラーバが多く繁殖していたので、それが原因かと思いまして・・・」

「ラーバがいたのですか~!?」


 まだ話の途中だったのだが、驚いた様にサイドテールの職員が口を挟んできた。


「そ、そうですね。それなりの数が居たので苦労しました」

「えっ!?苦労したって・・・まさか討伐してきたんですか~?」

「ええ、もちろんです。依頼書には調査と解決とありましたので・・・」

「ええっ!?ラーバを~!?」


 なんだか知らないけど、このサイドテールの職員は驚いているようだった。そこまでラーバが強かったようには思えないのだが、どうしたんだろうか?


「一応、証拠として死体を持って来ているので出しましょうか?」

「そ、そうですね。お願いします~・・・あぁココじゃダメですよ。解体場の方にお願いしますね~」


 一人で驚いたり、焦ったりしているサイドテールの職員が席を立ち、敬太を誘導してきたので付いて行くと、奥の方の扉へと連れてこられた。


「こちらです~。どうぞ~」


 サイドテールの職員が奥の扉を開けると、その先は大きな厨房の様な工場の様な施設があった。あちこちに肉片が吊るされ、見た事も無い死んでいる生き物が横たわっている。4~5人の男達が大きな包丁の様な刃物を手にして、吊るされた死体に群がり肉片へと変えていっている。ある者は臓物を取り出し、ある者は毛皮を剥ぎ取り、床に滴る血を桶に汲んだ水で洗い流している。


「それではこのテーブルの上にお願いします~」


 サイドテールの職員に促され、畳2畳ほどの大きさのテーブルの前にやって来ると、そこに置く様に指示された。


「分かりました」


 敬太はハードシェルバッグを体の前に持ってきて、中から取り出す様にしながらラーバの死体を【亜空間庫】から取り出していった。


 1匹2匹3匹・・・。ラーバの体長は1mぐらいあるし横幅も50cm~60cmはあるので、このテーブルの上に全部は乗せきらない。何せあの川で仕留めたラーバの数は40匹近いのだから。


 テーブルの上に頑張って15匹程重ねて出していたが、端の方が崩れて雪崩が起き、地面にラーバの死体が落ちてしまった。


「すいません。これ以上は置けないのですが?」

「・・・」


 何故だろう。サイドテールの職員が目を剥き驚いた表情で固まっている。


「すいません。これ以上置けないので指示が欲しいのですが?」

「えっ・・・ええ・・・ま、まだあるのですか~?・・・」

「はい。後20匹以上はあります」

「ええっ~!」


 良く驚く人だ。何かまずい事をしてしまっているのだろうか。

 不安になってしまう。


「げ、げ、ゲンさ~ん~~!」


 サイドテールの職員は、急に大声をあげながら解体場を走って行ってしまった。


 敬太はその姿を目で追いながら立ち尽くすしかなかった。

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