第78話 解放

 先程買ったディスクグラインダー、通称サンダーを取り出した。

 CDのような円盤型の砥石のような物を高速で回転させる道具で、金属を削り切るのによく使われる物だ。


 電源を繋ぎスイッチを入れる。


 すると、辺りに回転音が響き、びしょ濡れのモーブが少し身構えた。

 敬太はそれに構わず、モーブの手首に付いている輪に手をかける。


「この後、子供達も切りますので・・・」

「うむ。そうじゃな」


 モーブに一言「しっかりしてね」という意味合いの声をかけ、回転しているディスクグラインダーを押し当てる。


「チュイイイイン」


 独特の金属を削る音を響かせながら、豪快に辺りに火花を散らした。


「あちち!」

「うむぅぅ!」

「わあああ~」


 モーブ達は体毛が濃く、体をびしょ濡れにさせていたが、それでも飛び散る火花は熱かったようで悲鳴があがってしまった。見込みが甘かったようだ。


「すいません。熱かったですね」


 一度ディスクグラインダーのスイッチを切って、改札部屋に入りタブレットで追加注文をする。ゴーグル、タオル、シャツ、前掛けなんかを防御用に頼み、モーブ達に着せていく。そして、今度は火花がなるべく敬太側に飛ぶように調整して、作業を再開する。


「チュイイイイン」


 枷になっていた腕輪は案外脆い金属だったようで、抵抗が弱く、ものの数分で削り切る事が出来た。


「うむ。いやはや、これはいいな」


 モーブは久々に自由になった左腕を曲げ伸ばししながら笑っていた。

 敬太もその笑顔が嬉しく釣られたように笑顔になっている。


 それから同じ要領で両足首、首と金属の輪を削り切っていき、あっという間にモーブは自由な体となった。


 輪が付けられていた場所は皮膚の色が変わっていて、ベコリとへこんでいて、くっきりと跡が残っているので痛々しいのだが、モーブの顔は晴れやかなものだった。


「ありがとう。礼を言うぞケイタ」

「いえいえ。はい、次は子供達の番です。モーブも手伝って下さいね」

「うむ。もちろんじゃ」

 

 子供は一つ年上のクルルンから作業を再開した。

 摩擦熱で金属の輪が熱くならないように水をかけたり、火花が飛んでも大丈夫なようにタオルをかけたり、全員で協力しながら子供達に付いていた枷の輪を全て外していく。


「軽いね~」

「動きやすいよ」


 全ての枷が外されると子供達は、それぞれ喜びを口にし、はしゃいでいた。

 そんな様子を敬太とモーブは目を細めながら眺めていた。



 ずっと水を出し続けていたので、辺りは水浸しになりモーブ達もびしょびしょになっている。そこで、どうせならと思い、お風呂の蛇口から出ているのを水からお湯に変えて、このままみんなでシャワーを浴びる事にした。


 改札部屋で敬太も素っ裸になり、シャンプーとボディソープを持ち出し外に出ると、一瞬フルチンの敬太にみんな驚いていたが、ホースのシャワーからお湯を出し、子供達を洗い始めると、何をしたいのか理解してくれたようだった。


 モーブ達はあまり綺麗ではなかったようでシャンプーを掛けても掛けても泡が立たずに苦労したが、丁寧に洗い流し続けていると段々と泡が立ちはじめて、綺麗になっていった。


「気持ちいいね~」

「いい匂いだねー」


 子供達は敬太にされるがままにされながらもシャワーを堪能しているようで、泡を立てガシガシ洗ってやると気持ちよさそうに目を細めていた。


 ここで気が付いたのだがクルルンは男の子でテンシンは女の子だった。

 今まで何となくテンシンの声が高いようなが気がしていたのだが、それは年齢によるものだと思っていた。だが、こうやって裸の付き合いをしてみると、付いている物が付いてなかったのだ。

 知っている人から見れば当然の事なのかもしれないが、どちらも幼い子供としてしか見ていなかった敬太にとっては新しい発見だった。


 モーブの方を見てみると、片腕しか無いので体を洗うのに苦労している感じに見えた。なので、子供達にも手伝ってもらい、みんなでワシャワシャ洗ってやって全身隈無く綺麗にしてやった。

 敬太も適当に自分を洗い、遠目にシャワーの様子を見ていたゴルも引っ捕まえて一緒に洗ってやった。



 外に運び出してあるダイニングテーブルと椅子を、濡れてない場所に移動させてタオルで水気を拭き取って行く。

 みんなにもバスタオルを配り体を拭かせ、椅子に座らせ、冷えた牛乳をそれぞれのコップに注いでやる。


「はいど~ぞ、飲んでいいよ」

「はーい」

「は~い」

「うむ」


 シャワーを浴びて火照った体に染みわたる冷たい牛乳。


「お代わりは自分でやって頂戴ね」


 物足りなそうな顔をしている子供達の前に牛乳パックを置いて、敬太はタブレットに向かい、思いついた細々とした物を注文していく。


 一緒にシャワーを浴びてみてハッキリと分かったのだが、獣人と言っても体形なんかは人間とそう変わりは無かったのだ。

 ただ頭の上に耳があり、尻尾があるだけ。手足も5本指で変わりは無く、人間のそれとなんら変わりない。

 なのでモーブ達の大きさにあった、シャツ、パンツ、ズボン、靴下、靴。一通りの衣服を、代えの分も考え3セットずつポチり、それぞれに配って着せてやる。


「どう?動き辛くない?」

「うーん、尻尾が動かせない」


 クルルンが獣人らしい感想を言ってくれたので、ハサミを持ってきてクルルンとテンシンの尻尾の部分に穴を開けて、尻尾を外に出してあげた。


「モーブはどうですか?」

「わ、わしは、自分で出来るぞ!」


 少し世話を焼き過ぎたのか、モーブは恥ずかしそうにして、ぶっきらぼうな返事を返して来たのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る