第77話 話し合い

 ダンジョンに移動してきて、少し遅めの朝食兼昼食を終えると、クルルンとテンシンはゴルと遊び始めたので、テーブルに新しいお茶のペットボトルを置いて、敬太とモーブはこれからについて話し合いを始める事にした。

 

「モーブ。これから行く当てや、手を借りれそうな伝手なんかはありますか?」

「いや、前にも話かもしれんが逃げ出してきた奴隷の身じゃ。家族兄弟などはとうに行方知れずになり、何の当てもなく彷徨っていただけじゃ」

「そうですか。クルルンやテンシンは?」

「子供達も同じじゃ。逃げている道中に天涯孤独の身となってしまっとる」

「なるほど。では私がこのダンジョンで匿おうと思うのですが、どうでしょうか?」


 モーブは少し驚いたような顔をした後、ゆっくりとゴルと遊んでいる子供達に目を向けた。

 敬太も釣られるようにして子供達を見る。


 しばらくモーブは考えているのか沈黙が続いているが、答えを焦らせないように敬太から声をかける事はしなかった。


「うむ。お願いする」

「はい。任せて下さい」


 しばしの沈黙を破りモーブの方から答えを出し、頭を下げてきたので、敬太は笑顔で返した。


 さて、守ると決めたからには色々とやるべき事がある。

 頭の中に出来る事を思い浮かべて優先順位を付けていく。

 

「それでは、まずモーブの事【鑑定】して見てみてもいいですか?」

「うむ。それぐらい構わないぞ」


 一応断りを入れてから【鑑定】を使う。



『鑑定』

モーブ(猪族)51歳

レベル  47



 あれ?意外とレベルが高いし、年齢も高い。

 猪族と言う現実の世界では見た事が無かった人種なので年齢不詳だったが、案外いってたようだ。

 敬太の【鑑定】のレベルが低いせいか、これ以上の情報は得られなかったので、もう少し話を聞いてみる事にする。


「なるほどレベルも高いですね」

「うむ。戦闘奴隷をやっていたせいかもしれんな」


 戦闘奴隷と言われても敬太にはピンと来なかった。コロシアムみたいな所で鎧を纏い、戦っている姿がぼんやりと浮かんでくるぐらいだ。


 まぁ、モーブの強さについては、後々確認していけばいいだろう。


 それから一応、子供達にも【鑑定】を使ってみたが、



『鑑定』

クルルン(犬族)4歳

レベル  5


『鑑定』

テンシン(狸族)3歳

レベル  2



 種族と年齢とレベルしか情報は得られず、たいして役に立たなかった。

 「鑑定LV1」だとこんなものなのだろう。

 とりあえず話を進める。


「これからモーブ達には、ダンジョンの改造にチカラを借りる事になりますが問題ないですか?」

「うむ。食料を分けてもらい助けてもらったんじゃ、そのぐらいは働かせてもらわんと、わしらも居心地が悪いわい」


 とりあえず手伝ってくれるようなので、やる事をやってしまおう。

 まず、防衛の事を考えるとダンジョンの入口に扉を作りたい。お城の城門のようなもので、車も出入りできる両開きタイプ。そして、安心して眠れるように、蹴ろうが叩こうが破られない様な頑丈な物がいい。想像して必要な物を考える。


 ある程度考えをまとめると、改札部屋からタブレットを持ってきて、モーブの前で材料を次々とポチっていく。

 角材、コンパネ、ビス、鉄板、蝶番、モルタル、砂利、セメントレンガ、ディスクグラインダー、ホースリール、雑巾。


 モーブは不思議そうにタブレットを見ていたが、何も言ってこない。「なんだそれ?」と言われても説明が難しいので、口数が少ないモーブにこっそりと感謝する。


「ゴーさん。みんなでダンジョンの入口まで運んでくれる?」


 特にやる事がなく、敬太の傍で地面に座っていたゴーさんにお願いすると、パッと立ち上がりシュタっと敬礼ポーズをしてテクテクと移動を始めてくれた。運搬は任せておけばいいだろう。


「モーブ。その手枷とかを外しちゃいたいのですが、外すと爆発したりしないですよね?」

「む!外せるのか?」


 モーブが思ったより食い付いてきたので少し焦ったが、首に付いている金属製の輪を、もう一度良く見て切れるかどうか検討した。

 輪は2つの半円が繋がり、接合部分はかしめてあるのかしっかりしている。言うならば「牛の鼻輪」の様なものだった。


「たぶん大丈夫だと思います」

「うむ。そうか、それはありがたい。是非ともお願いしたい」

「分かりました。ちょっと準備するので待って下さいね」


 枷となって手首、足首、首に付いている輪は金属製で重さもありそだが、切れない事は無い太さだ。

 動くのにも邪魔だったのだろう、モーブは嬉しそうにしている。

 

 敬太は改札部屋に入り、レベルアップボーナスで取得していた「お風呂」の蛇口に、さっき買ったドラムに巻き付いたホースを繋げ、扉の外まで伸ばす。


「モーブ。腕をテーブルの上に置いて下さい」

「うむ」


 少し緊張した面持ちで、枷がある方の左腕をテーブルの上に置いたので、金属の輪の内側に、肌と輪が直接触れないように雑巾を間に挟み込み、火傷防止になるようにした。


「おーいクルルンにテンシン、手伝ってくれるかい?」

「はーい」

「は~い」


 ゴルと遊んでいた子供達を呼び寄せ、ホースの先のシャワーのレバーを握らせ水を出して見せて指示をする。


「これでモーブの腕の輪にずっと水をかけといてくれる?」

「はーい」

「水がずっと出てるね~」


 水道が珍しいのか、モーブ達は水が出続けている事に驚いていたが特に説明はしなかった。


 腕を置いたテーブルの上は水浸しになり、モーブも子供達もびしょ濡れになりつつあるが我慢してもらおう。

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