第62話 通路の先
左手側の通路を30mぐらい進むと、先の方にぼんやりとした明かりが見えてきた。
「明るいな・・・」
敬太は今までになかった状況に体を強張らせ、それまで散歩の様に歩いていた歩みを止めた。
そこから慎重に辺りを見渡し、異常が無いか確認するが、特に何も見当たらず、平和な通路が続いているだけだった。
通路の先の方を見ても何も感じられないし、特にモンスターの気配もしない。
「行こうか・・・」
後ろで敬太に従う様に止まっていたゴーさん達に声を掛け、あの明かりは何なんだろう?と首を傾げつつ、再び歩き始めた。
先に見える明るさは、近づくにつれて段々とハッキリとしてきていた。
蛍光灯のような明るさでは無く、眩しいぐらいの明るさがあって、真っ暗だった通路が薄暗いという感じにまで明るくなっている。
そんな強烈な光に向かって恐る恐るだが歩みを止めずに近づいていく。何故近づいていくのかと言えば、多分知っている光だからだ。見覚えがある、よく知っている、そんな感じがして足が止まらないのだ。
小さかった強い光は、どんどんと大きくなり、やがて敬太を包んでいった。
耳には足音の他に風の音が混じりだし、ついに通路が終わりを迎える。
敬太の眼前に広がるのは空の青さと、生い茂る木々の緑。
そう外に出たのだ。
光の正体は、降り注ぐ太陽の光だったのだ。
目が慣れ始めてぐるっと周りを見渡すと、見慣れない大きな木々が生い茂り、辺り一面雑木林の様になっていた。
通路の入口は、平坦な雑木林の中に突然ぽっかりと開いている穴のような洞窟だった。
木々の隙間から遠くの方を見て、何か目印になるような高い物は無いかと探してみたのだが、山とかビルとか塔とかも見当たらず、本当に何処を見ても「木」「木」「木」木しか見えなかった。
ココは何処なんだろう?この場所のヒントを掴みたい。
目の前に広がる雑木林は、植林地の様に手入れされてるような感じもないし、かと言って歩きづらいほど下草が生い茂るジャングルの様な密林って訳でもない。木と木の間はそれなりに間隔が開いていて、森より木の密度の低い、正に雑木林って感じだ。
気が付くと、何処までも木しか見えない同じ様な景色の中を歩き出していた。
近くに建造物や集落、または山とか川でもいいので、何か探し出したいと気が急いでいたのだ。
知っている何かがあれば、それでダンジョンの謎が解けるかもしれない。
人が近くに居いるなら、話をしてみたい。そこでダンジョンの事を聞いてみれば何かが分かるかもしれない。
そう考えるとじっとしていられなかったのだ。
好奇心と期待を胸に散策を続けていった。
1時間後。
「迷った・・・」
いくら先へ進んでも、何も見付ける事が出来ず、平坦な雑木林が延々と続くだけだったので、一旦引き返してきたのだが、周りが木だらけで似たような景色だったので、ダンジョンへの帰り道が分からなくなってしまっていた。
方角的には合っているはずなのだが、全然ダンジョンの入口の洞窟が見えてこないのだ。
こんなはずじゃなかった。
ちょっとだけのつもりだったのに・・・。
それから3時間後。
「やべぇ・・・」
完全に迷っていた。
ハードシェルバッグに入っていたゴルが「お腹空いたー」と訴えるので、ハードシェルバッグを体の正面に持ってきて中を覗き込みながら「ごめんね」「もうすぐだからね」と、ずっと宥めながら歩いている。
既に日は傾き、辺りは薄暗くなってきている。ダンジョン装備で出てきているので明かりは大丈夫なのだが、水分が無いのが痛い。
そんなに遠出するつもりは無かったので、500mlのペットボトルのお茶を1本だけハードシェルバッグの脇に刺していただけだったのだ。
そのお茶は歩き出して2時間経った辺りで、もう既に飲み干してしまっている。
喉が渇き、お腹も空いているのだが、何とかチカラを振り絞り歩き続けていると、不意にゴルがハードシェルバッグからピョンと飛び出し、走って行ってしまった。
敬太はゴルの突然の行動に慌てながらも後を追いかけ走ったが、日が落ち暗くなっているのでゴルを見失いそうになってしまい、急いで体中に付いてるライトを全て付けた。
「ゴル待って~」
何度かゴルに呼びかけると走るのを止め、敬太の方を振り返り「早くこっち」みたいな顔して待っててくれたのだが、ちょっと近づくと、またサササ~って走って行ってしまう。
「ゴル~」
敬太の後ろにはゴーさん達が頑張って付いて来ているが、その歩みは遅く、これ以上お互いが離れてしまったら見失ってしまいそうだった。
「ゴル、行っちゃダメだって。待って、ゴーさん早く!」
先を行くゴルを見ると、振り返り敬太を見ていた。一応言う事を聞いて待っていてくれているらしい。
なので、しばらくその場に留まり、後方を歩くゴーさん達を待ち、敬太にようやく追いついたと思ったら、またサササ~とゴルが走り出してしまった。
「待って~」
その後も何度となく、ゴルとゴーさん達と敬太の奇妙な鬼ごっこを続けていると、いきなり穴の様な洞窟が目の前に現れた。
「えっ?」
ゴルは澄まし顔で洞窟の前で座って待っている。
どうやら敬太達を誘導してくれていたようだ。
ゴルめ、猫のくせにやるじゃないか・・・。
「そう言う事だったのか。ゴル、ありがとな」
「ミャー」
声をかけるとゴルが足元にすり寄ってきたので、抱き上げて頭を撫でてやる。
完全にゴルに助けられる形で帰ってこれた。
それから敬太を後から追って来ていたゴーさん達がようやく追いついてきて、やっと全員が合流出来た。
「ごめんな、ゴーさん達もありがとね」
ゴーさんにも謝罪とお礼をすると、いつものようにシュタッっと敬礼ポーズをしてくれたので、ほっと胸を撫で下ろした。
一時はどうなる事かと焦ってしまったが、こうして皆でダンジョンへと戻ってこれたのであった。
敬太はレベルアップボーナスでずっと無視していた「自動マッピング」を絶対に取るんだと心で誓いながら改札部屋に戻って行った。
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