第58話 ゴーレム2

 ゴルにポーションを飲ませる事が出来たので、敬太は装備を外し落ち着いた格好になり、リクライニングチェアに腰かけ、お茶を飲んだ。


 ゴーレムにも悪い事をしてしまったし、これからの戦い方は考えなくてはいけない。


 ぼんやりと腕を組み反省と考え事をしていたが、物置の取っ手の黒い四角の上の部分が点滅しているのが目に入った。


 最近は朝の4時に電源が入り、罠が作動した時にしか光ってなかったのですっかり忘れていたが、戦いでドロップ品を得ると「自動取得」で回収され、それが物置に収納されているのだった。


「ピッ」

 

 物置を開いてみるとポーション1つとマジックポーションが4つあった。


 これも忘れていた、ロウカストはマジックポーションを落とすんだった。これがあれば先程の戦闘で追いつめられることも無かっただろうに・・・。

 レベルアップボーナスの「自動取得」で現地には落ちない弊害を、今日は思いっ切り味わってしまった事になる。

 機能の切り替えとか、選択出来れば便利なのに、そう上手くはいかないもんだ。


 ポーションとマジックポーションを物置からロッカーに移す。

 探索に持っていくもの以外はロッカーに入れて保管してあるのだ。


 ブレイドラビットの罠を作ってからは毎日1~4個ぐらいづつ増えていってるポーション。最近はありがたみも薄れ、ロッカーには20個ぐらいストックがあった。

 一方、マジックポーションは今手に入れた4個しかない貴重品だ。

 安全の為にもっと手に入れたい所だけど、落とす奴がロウカストだから、なかなか集めるのは厳しいかもしれない。



 少し迷ったがマジックポーションを1個手にしたままロッカーを閉め、それから腰に手を当てマジックポーションを飲み干した。


「【土玉】」


 MPを回復させ、土魔法を使うと手の平からピンポン玉ぐらいの白い玉「ゴーレムの核」が出てきて、例のハンガーノックのようなMP枯渇の症状が襲ってきた。


 よろよろとリクライニングチェアに腰掛ける。


 なんとなく新しいゴーレムを作ってやっておきたかった。

 身代わりに倒されてしまったゴーレムへの贖罪の気持ちなのかもしれない。

 貴重なマジックポーションよりも、このハンガーノックのような辛い症状よりも、今日のうちに新しい「ゴーレムの核」を1個作ってあげたかった。


 生まれ変わっても、また来てね。ゴーレム。


 2つに割れてしまった「ゴーレムの核」と新しく作り出した「ゴーレムの核」を、それぞれの手に持ち祈らずにはいられなかった。

 命を助けられたのだ。感謝の気持ちが溢れ出していた。

 


 しばらくしてハンガーノックのような症状が治まると、それと同時にゴルが起きてきた。


「ミャ」

「起きたかゴル。悪かったな」

「ミャー」


 テーブルの上から敬太の膝の上に移動させて、ゴルの頭を撫でながら謝った。

 ゴルは覚えていないのか、気にしていないのか、いつもと変わらぬ様子だったのが、ありがたかった。


「ミャーミャー」


 そして、いつもと変わらずご飯を催促してくる。

 そんな様子を見ていると元気で良かったと安心出来た。

 贖罪の気持ちもあり、いつもよりちょっと豪華な缶詰をネットショップで買って器に開けてやる。


「召し上がれ」


 すると、何か「ミャーミャー」言いながら一心不乱に食いついていた。

 ゴルのご機嫌な様子に敬太も癒され、ほっと息を吐いた。




 2つに割れてしまった「ゴーレムの核」は、ゴルの卵を入れていた宝箱型の箱に入れて、改札部屋の道具棚の上に置いた。なんとなく捨ててしまうのは忍びなかったのだ。

 初めて魔法を使い作り出したゴーレムとは短い付き合いだったが、敬太の事を身を挺して守ってくれた奴の形見を、ぞんざいには扱えない。



 それから、ご飯を食べ終わったゴルと話し合い?みたいな、通じているか分からないけど、そんな事をしてみた。

 その結果「一人でお留守番は嫌だ」「敬太についていきたい」と駄々をこねるような、そんな感じの一点張りだった。

 飼い主としては嬉しいような、困ったような複雑な心境だ。


 結局、話し合いの最後まで、可愛い子猫に強気に出られず、根本的な解決には至らなかった。


 仕方が無いので、しばらくロウカスト方面に行く事は止めて、手が開いたらピルバグを狩ってレベルを上げていく感じにしようと思う。

 それとゴルにリュックの外に出て歩く練習もさせる。また混戦になった時に、リュックに入っているより何処か端っことかに隠れていた方が安全な気がするし、そもそも大きくなったらリュックから出ないとならないからね。


 まだ子猫なので独り立ちには早い気もするけど、徐々に慣れていってもらうようにしようと考えた。

 最近は出かける時に声をかけると自らリュックに入って行くぐらい、リュックのポジションを気に入ってる様なので難しいかもしれないけど、これもゴルの為だ。頑張ってもらおう。




「ゴル、行くよ~」

「ミャー」


 敬太も適当に昼ご飯をデリバリーで済ませ、午後からの仕事に出かけようとゴルに声をかけると、自らハードシェルバッグに突っ込んで行き、そこから頭だけを出して敬太の事を見ている。


 そういう顔されると困っちゃうよ「リュックから出ろ」なんて、とてもじゃないけど言い出せない。


 敬太は黙ったままリュックを背負い、つるはしを担ぎ、結局いつもの様にゴルはハードシェルバッグに入ったまま部屋を出て行くのだった。

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