第57話 ゴーレム

 その時、不意に敬太の視界が大きな黒い物で埋め尽くされ、ロウカストによる体当たりの衝撃は、いつまで経っても襲って来なかった。


 敬太はその後もしばらくボーっとしていたが、次第に頭が働いて来るとやっと現状を把握する事が出来た。

 ゴーレムが敬太の前に立ちはだかり、ロウカストの攻撃を受け止めていたのだ。


 目の前にいる丸いゴーレムの頭と体は、欠けたり、ひび割れたりしていて形が崩れてしまっているが、小さな丸い手を必死に広げロウカストの攻撃を一身に受けていた。


「ゴーレム・・・お前・・・」


 敬太が声をかけると、ゴーレムはゆっくりと頭の部分を回転させて振り返ってきた。顔の部分に目や口は付いていないのだが、鼻の部分には敬太が作った「ゴーレムの核」が埋め込まれており、いつも通りのシュタッとした俊敏な動きでは無かったが、敬礼ポーズをしている。


 その時、顔に付いている「ゴーレムの核」にもヒビが入っているのが見えた。ロウカストの体当たりを受け止めたので、かなりのダメージを受けてしまっているのだろう。


 ゴーレムの足元には敬太が与えたハンドスコップが落ちている。

 階段の段差を埋めて、短い足でここまで下りて来てくれたのだ。


 敬太は少し胸が熱くなり、意識が覚醒していくのを感じた。

 ゴーレムが捨て身で作ってくれた、この時間を無駄にしてはいけない。

 ウエストポーチを開きポーションを取り出すと、素早く煽った。


 すぐに体中が熱くなり、新しいチカラが込み上げてくる。痺れていた腕も気にならなくなり、攻撃を受けてしまい痛んでいた肩や腹も何ともなくなっている。

 ポーションの効果は覿面だ。

 空になった小瓶を地面に投げ捨てて、素早く立ち上がる。


 手にしていた「赤樫 小次郎」は、体当たりを喰らった時に手放してしまったようで、手には何も持っていなかった。

 仕方が無いので背中の「櫂型木刀」を抜き出す。

 かなり重いが文句を言っている場合では無いだろう。


 目の前に立ちはだかるゴーレムを、邪魔臭そうに蹴とばしているロウカストの脚に向かって重い木刀を振り下ろしてやる。

 すると、パキッっと音を立てて、ロウカストの脚は変な方向に曲がった。


 急に支えを失ったロウカストは地面に倒れ込み、元気な方の脚を振り回しながら暴れている。

 敬太はぐるっと回り込み、暴れる脚が届かない所に陣取ると、重い木刀を何度も叩きつけた。


 ちょっと頭に血が上り、袋叩きにするのに夢中になり過ぎてしまい、もう1匹のロウカストへの注意がおろそかになってしまっていた。

 その為、敬太に向かって飛んで来ているのに気が付くのが遅れ、またもや体当たりを喰らいそうになってしまった。だが、ここでも体を張ったゴーレムに助けられてしまう。


 ゴーレムは体を崩しながらも移動していて、ロウカストの体当たりを、丸かった手を懸命に広げ、自らを犠牲にして食い止めてくれたのだ。


「ごめん!」


 敬太は一言だけ謝罪を口にし、急いで体当たりをしてきたロウカストにも、木刀を叩きつける。


 ゴーレムが防御に徹し、敬太が重い木刀で叩きまくる。

 ロウカスト達に負けないぐらいの、コンビネーション攻撃を繰り広げていると1匹を煙に変え、もう1匹も脚が折れ時間の問題となっていた。


 残る1匹に何度も何度も木刀を叩きつけていると、ようやく煙を吹き出し姿を消していった。


 敬太は息を荒げながらも「やったな」と、ゴーレムに声をかけ振り返ったのだが、そこにゴーレムの姿は無く、土の山と2つに割れた「ゴーレムの核」が転がっていて、傍にはハンドスコップが落ちていた。


「ありがとな・・・」


 割れた「ゴーレムの核」とハンドスコップを拾いあげ、地面に落としていた「赤樫 小次郎」も拾う。


 手の中にあるハンドスコップを握りしめ、一瞬だけ目を閉じてから、急いで階段がある方へ走り出した。



 再びロウカストに襲われる事なく階段まで辿り着くと、そこはすっかりと様変わりしていて、階段の横半分に土が盛られていて綺麗な坂道に変わっていた。


 敬太が言った通りに作られている。

 ゴーレムは言われた通りの仕事をしてくれていたようだった。


 坂道を見るとゴーレムの丸い足跡がたくさん残っていた。




 急いで改札部屋まで戻ってきた。

 すぐにハードシェルバッグを降ろし中を確認すると、ゴルは目を閉じたまま動かなくなっていた。


 そっとゴルを両手ですくい上げ、テーブルの上にタオルを置いてその上に置く。そうしてから、良く様子を見てみると、お腹が上下に動いていたので息はあるようだった。


 ほっと胸を撫で下ろし、ゴルが使っていた哺乳瓶を引っ張り出してくる。

 それで、中にポーションを入れて飲ませようとしたのだが、動かないゴルは飲んではくれなかった。


 少し考え、ネットショップを開き小さいスポイトを買って、今度はそのスポイトでゴルの小さな口に流し込んでみると、ポーションは喉の奥に流れていった。


 これで目を覚ましてくれればいいのだけど・・・。


 ゴルがどれぐらいダメージを受けてしまったかを確認するのに、ハードシェルバッグを拾い上げ点検して見たが、ハードシェルバッグは見た感じ形は崩れていないし、破損もしていなかった。


 とりあえずゴルがバッグごと潰されたって事はなさそうだ。


 もうゴルをリュックに入れて激しい戦闘するのは禁止だな。

 敬太と共に、あれだけ振り回されたらたまったもんじゃなかっただろう。


 敬太は肝に銘じておいた。

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