第45話 後悔先に立たず

 さらに翌日。

 今日も仕事を終えて父親の世話をしてから、ダンジョンにやって来た。


 改札部屋から扉を出たら右手側に行って階段を上る。

 体育館部屋に着いたので、ハンディライトで部屋の中を照らすと、ピルバグは転がっているが、ニードルビーはいない。


 真っ直ぐに続く2個目の体育館部屋も、3個目の体育館部屋もニードルビーはいなかった。


 階段を上り十字路部屋へ。

 この部屋も、思った通りでニードルビーはいなかった。



 左手側にある蜂の巣部屋に続く通路に押し込んであるコンパネの蓋を、引きずり出し通路に入る。

 通路の中程まで来ると羽音が聞こえてきて、ハンディライトで照らすとたくさんのニードルビーが飛んでいるのが見えた。見た感じ、やっぱり昨日より数が多い。倍ぐらいの数がいるんではなかろうか。


 1日でどれぐらいの数かは分からないけど数十匹ずつ、ここで毎日リポップしていってるって事が確認できた。

 そして他の部屋にニードルビーがいない事から、この部屋でリポップして、この部屋から流れ出ていってるってのが、可能性として一番高いと考えられる。

 これは、敬太が思い描いていたリポップの仕方で一番良い結果だった。


 これならば次の作戦に移せる。


 敬太は木刀「赤樫 小次郎」を背中から抜き、部屋に飛び込んでいった。




 木刀を振り回し続け、肩で息をし、汗が流れ落ちる頃にはブンブンと飛び回っていたニードルビー達は全て煙に変わっていた。

 荒い息を繰り返しながら部屋の中を見回し、生き残りがいないか確認してから、木刀を背中にしまい部屋を後にした。


 煤で真っ黒になっている通路を歩き、手前の十字路部屋まで戻り、コンパネの蓋を通路に押し込み杭を打つ。

 それからゆっくり息を整えながら改札部屋へと戻って行った。



 改札部屋と戻ると装備を軽く外し、ペットボトルのお茶を飲みながらタオルで汗を拭った。

 ハードシェルバッグを開けて床に置くと、ゴルが「何ですか?」と顔を出してきたので頭を撫でてからリクライニングチェアに腰掛ける。

 それから、ひじ掛けにあるタブレットを手に取りネットショップを開き、思い付く物から検索してタップしていく。


 配電用ケーブル100m×3、差し込みプラグとプラグ受け、ケーブルステップル、延長コード、コーキング材、電気ボックス、熊用電気柵、玄関マット、コンパネ、角材、ビス、キャスター、タイヤストッパー、脚立、電動丸のこ。


 今思いつくのはこれぐらいだろうか?


『カードをかざして下さい』

「ピピッ」


 物置の方から物音がして黒い四角の上の部分が点滅する。

 リクライニングチェアから立ち上がって物置の黒い四角にススイカ(改)をかざす。


「ピッ」


 戸を開くと今さっきポチった物が、物置の中に置かれていた。

 買い込んだ大量の荷物のせいで、部屋の片隅が工務店化してきているのは気のせいではない。今度、工具類を置くのに棚でも作った方がいいのかもしれないな。



 さて、お昼も近いので、あそこでハードシェルバッグに頭を突っ込んで、お尻丸出しの子を連れて帰りますか。


「おーい、ゴル帰るよ」

「ミャー」


 


 それからは時間が出来たらダンジョンに籠って作業、仕事、作業の日々が続いた。






 11日後。

 長かった・・・想像以上に時間がかかってしまった。

 頭の中ではすぐに終わる作業だと思っていたのだが、そう上手くはいかないもんだ。


 最初は、改札部屋の扉から外に出したドラムを起点に、蜂の巣部屋までケーブルを1本壁に這わせていって電気を通そうと考えていた。

 目の高さ辺りの壁にケーブルステップルを打ち込んで、それにケーブルを引っ掛けるだけ。簡単でしょ?


 だが、体育館部屋までケーブルを伸ばして行って、改札部屋に戻った時、改札部屋の扉の所に3本だけ付けた蛍光灯が遠くからでも明るく見え、暖かく出迎えてくれて、その明かりが安心でき「いいな~」っと思えたのだ。

 それで、あの蛍光灯の取り付けは凄く簡単なので、これだけ心が休まるならば蜂の巣部屋の前までずっと付けていってしまおうと簡単に考えてしまったのだ。多分10本とかそれぐらい蛍光灯を付ければダンジョン内が明るくなっていいだろうと、軽く考えていたのだ。


 次の日にはネットショップで蛍光灯を頼んで、取り付け始めたのだが、明かりと言うのは上から照らさないと眩しいので、蛍光灯は脚立に乗って高さ2mちょっとぐらいの位置に取り付けていく事にしたのだ。

 そうすると、今まで目の高さの位置に付けてきていたケーブルが、何となく目立ってしまい、気に入らなくなってしまった。

 ケーブルは既に体育館部屋まで伸ばして行っていたのだが、それらを一旦全部外してやり直し。蛍光灯と同じ高さに付けていく事にした。



 脚立に上ってケーブルステップルを打ち込んでケーブルを引っ掛けて、蛍光灯の付属のフックをコンクリート釘で打ち付けて、脚立を1回下りてから蛍光灯本体を持って脚立に上って引っ掛ける。また脚立から下りて脚立を移動させてから脚立に上って蛍光灯の連結コードを隣の蛍光灯から延長コードを挟んで繋げていく。この延長コードもそのままだと、だらんと垂れ下がって見栄えが悪いのでケーブルステップルを打ち込んで綺麗にしておく。


 これが1か所の作業。


 ケーブルステップルは1mおきに打ち付け、引っ掛ける。

 蛍光灯は10mおきに取り付けていく。


 途中で蛍光灯を付けていくのは案外面倒だって事に気が付いてしまったのだが、もう引き返せない位置まで来てしまっていたので、続けてやっていくしかなかった。


 ずっと腕を上げての作業なので、腕は筋肉痛になるし、コンクリート釘とかケーブルステップルとか細かい物があまりにも多いので、腰袋まで買ってしまった。

 腰袋のベルトにハンマーとスケールを引っ掛けて、歩くと腰袋の中の釘とかがジャラジャラと音が鳴る。もう電気工事のおじさんになっていた。


 最終的には蛍光灯27本付けていた。1本3,200円だから、なかなかのお値段になっている。後悔先に立たずだ。


 でも、そんな作業も昨日には終わりにする事が出来て、どうにかこうにか体育館部屋を抜け十字路部屋までケーブルを引いてくる事が出来た。


 そして今日は休日、やっと本命の作業に取り掛かれるって訳だ。

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