第42話 一酸化炭素警報器

 ロッカーを開けて着替えようと思ったが防護服に煤が付いていたので、煤落としから始める事となった。

 タオルをペットボトルの水で濡らしてゴシゴシ拭いていく。思ったより簡単に綺麗になったので、満足して着こんでいく。

 ライトにも煤が付いていたので、丁寧に一つ一つ拭っていく。光量が落ちてしまうと暗くなって危ないからね。道具の手入れは大事です。

 ゴルが入るハードシェルバッグも拭いて、一通りの装備品を綺麗にした。


 装備一式を身に着け、ゴルにハードシェルバッグに入ってもらう。眠っているのに悪いなと思いながら、ダンボールにから拾い上げたら「ミャ」と一瞬ビックリしたような声を出したが、その後はされるがままに従ってくれたので良かった。


 改札部屋の扉を開き右手側に進む。階段を上り体育館部屋を突っ切っていく。この辺りは何も変わりはなくニードルビーが漂いピルバグが転がっていた。


 そのまま真っ直ぐ進んで行くと、上りの階段があるので上って行く。途中、踊り場で折り返した辺りからゴムの焼けた匂いが漂い始めた。


 階段を上りきり部屋に着くと一層ゴムの匂いが強くなった。床は真っ黒に変色しており、タイヤの燃えカスが左手側の通路の近くに落ちている。


 左手側の通路には敬太が作ったコンパネの蓋がはまっていて、角材の杭もそのまま地面に刺さっていた。地面にはハンマーとゴミ取りトングが落ちていて、昨日の状態のまま何も変わっていなかった。


 杭を抜き、コンパネの蓋を引きずり通路から出す。

 コンパネの蓋の内側だった部分は真っ黒になってしまっていて、燃えたタイヤの威力の凄さを物語っていた。


 ハンディライトで通路を照らし奥を見てみると、通路の中は何処もかしこも真っ黒で煤だらけになっている。

 思っていたより酷い状況に、これ、中の空気は大丈夫なんだろうか?と心配になってしまう。


 そこで一旦、改札部屋に戻り、ネットショップで「一酸化炭素警報器 1,699円」を買ってみる事にした。説明書を流し読みして、電池を入れてテストをし、500ppmでセットする。おもちゃの様に軽く、手のひらサイズなので、ハードシェルバッグの横に付けても邪魔にならなそうな感じだ。


 最近は「一酸化炭素警報器」をキャンプのテントの中などでも使う事が多いらしく、お気に入りのキャンプ動画で紹介していたのを思い出したのだ。

 

 これで空気対策は大丈夫だろう。




 改めて十字路部屋まで戻り、通路の壁に付いている煤に触れない様に、ゆっくりと中へ入って行った。


 以前の蜂の巣部屋の様子と比べると、かなり静かになっていて、この状態では「蜂の巣」とは呼べないなぁなんてどうでもいい感想が浮かんでくる。

 この煤だらけの通路を見た感じでは、生き残れた奴はいないだろうと思えた。


 蜂の巣部屋の前まで進み中の様子を見てみると、通路と同じ様に煤だらけで真っ黒になっており、生き残ったニードルビーは1匹も見当たらない。

 

 入ってきた通路以外に出入口は無く、行き止まりの部屋のようだ。壁から天井までも黒くなっていて煤だらけになって、部屋の入口付近にはタイヤの燃えカスが落ちている。


 さて、検証だ。


 今この何もいない部屋、ここを1日密室にしておこう。それで明日ニードルビーが沸き出てくるか、それとも何もいないままなのか確かめてみよう。


 部屋を出て通路を戻り十字路部屋に出る。

 通路から出していたコンパネの蓋を再び通路にはめ込み、角材の杭も打っておく。これで何もいない密室の完成だ。また明日様子を見に来よう。


 地面に落ちているトングとハンマーを拾って階段を下りていく。


 改札部屋に戻ろうと体育館部屋を突っ切って歩いていたのだが、そう言えばと思い出し、足を止める。

 新しく覚えた魔法【クイック】を使ってみようと思っていたのだった。

 どうなるか分からないので、なるべく改札部屋に近い下り階段の手前の体育館部屋まで移動する。


 荷物とハードシェルバッグを降ろし、危なくない所に置いておく。なんでゴルも降ろすのかって?【クイック】がどう作用するか分からないからだ。もし敬太だけが魔法の範囲で素早く動きだしたら、背負っているゴルはその素早さで振り回される事になってしまうだろう。


 さて、相手はそこで浮かんでいるニードルビーにお願いするとしよう。


「【クイック】!」


 どうだ?ニードルビーには変化が見られない。体に合わない小さな翅を一生懸命羽ばたかせているのが見える。


 ちょっと木刀を素振りしてみる。

 うん、いつも通りだ。


 あれ?



『鑑定』

森田 敬太  37歳

レベル  13

HP  28/32

MP  16/16

スキル 鑑定LV1 強打LV3

魔法  クイックLV1

契約獣 ゴル


 ん?MPが減ってない。失敗したのだろうか?魔法って失敗するものなのか?


 試しにスキルを使ってみて【鑑定】でMP残量を確認してみる事にした。


「【強打】」


 あ、MPが1減った。

 

「【クイック】」


 MPに変化は無い。魔法が発動していないのだろうか?


「【クイック】」

「【クイック】」

「【クイック】」


 ダメだ・・・。MPに変化は無く、魔法も発動しない。


 こういう場合は、LV不足やMP不足が真っ先に考えられるが、このゲームの世界観の中ではどうなんだろうか?

 そもそも原因を突き止める事が出来るのだろうか?



 その後も何度か「【クイック】」と口にしてみるが、やはり何も起こらなかった。

 【クイック】を使うには、どうも何かが足りてない気がしてしまう。


 まぁ、絶対に必要な物でもないし、今すぐ必要な訳でもないし、今は放って置くしかないのだろう。

 LVや最大MPが上がってから試すぐらいしか解決策が思い浮かばない。


 現金が落ちたり、ポーションが落ちたりする現象にも何の説明も無く、こういう細かい設定が分からないダンジョンの世界。


 何事も手探りで探って行くしかないのだ。


 地面に置いていた荷物を拾い、ハードシェルバッグを背負うと改札部屋へと戻る事にした。

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