第40話 検証結果

 改札部屋まで辿り着くと、飛び込むようにして部屋に入り、素早く扉を閉める。

 乱れた息を整えながら、部屋の中にニードルビーが入って来ていないかを確認すると、ようやく落ち着く事が出来た。

 殺傷能力が低いニードルビーとはいえ、ブンブンと付き纏われるのは気持ちがいい物では無いのだ。


 ヘルメットを外し、額の汗を拭うとATMに足を向ける。

 それからお引き出しボタンを押してススイカ(改)を所定の場所に置く。



残高 4,768,880円



 確か最後に見た時の残高は405万円だったので、既にニードルビーを71匹倒しているのか、それだけの報酬が敬太のススイカ(改)に入っていた。


 よしよし、とりあえず「罠」を使ってもお金を回収出来る事が分かった。



 さて、次の検証だ。


 このまま改札部屋から駅へ戻ると、その間に仕留めたものの報酬はどういう扱いになるのか?


 特に確認をしなければいけない事では無いが、タイヤが燃えている間は何もやる事が無いので、確認してみようかなって感じだ。


 そんな訳で、ロッカーを開け着替えを始める。

 ふと上着を見ると煤が付き黒くなってしまっていた。

 ロッカーの鏡で顔を見ると、顔も黒くなってしまっている。

 時間が惜しいので適当に煤を払い、着替えを済ませる。ちょっと落ち切ってない黒い部分もあるが、そこは後で落とせばいいだろう。


 改札部屋を出る前に、もう一度残高を確認する。



残高 4,978,880円



 凄い勢いで残高が増えていってるようだ。

 敬太はニヤリとしながら改札を使い駅に戻った。



 まだ朝の早い時間の駅構内をゆったりと歩き、1~2分の時間を空けてから改札部屋へと戻り、再度残高を確認する。

 


残高 5,228,880円



 どうやら現実世界に戻っても、その間に「罠」で倒したモンスターの報酬もススイカ(改)に回収されるようだった。



 

 翌日。 

 今日も仕事は休みなので、家の事を済ませると、早々に駅へと向かった。


 改札部屋に到着すると、最初に物置の黒い四角の上の部分が点滅してないのを確認した。

 今までニードルビーとピルバグがお金以外に何かをドロップした事は無いのだが、あの蜂の巣部屋の中の全てを倒す様な「罠」で、かなりの数を倒してもドロップは無いらしい。


 ゴルをダンボールに移し頭を撫でると眠たそうな声で「ミャー」と返事をしてくれた。

 残高はどれぐらい増えているだろうか。


 期待に胸を膨らませパッとATMの画面を見ると、文字が映し出されていた。



『レベルアップおめでとうございます』



 おぉ!来た来た。早く残高を見て確認したいが、この画面からは戻る事が出来ない。強制的に何か選ばないと残高確認が出来ない状態だ。


『レベルアップボーナス』


自動マッピング

椅子

ヨシオ音声

トイレ



 項目が変わった気がする。ロッカーのツリーが消えてトイレが出てきたようだ。

 なんだか部屋を作るような項目が増えていく。

 自動マッピング、前からずっとあるけど必要性は未だに感じないし、ヨシオ音声はいらん。


 実質2択だ。


 敬太はしばらく悩み椅子の方を選んだ。これと言って理由はない、なんとなくだ。


「ピン」

『カードを置いて下さい』


 ススイカ(改)を置く。


『登録が完了しました。カードのお取り忘れにご注意下さい』


 すると部屋の中にフッと何かが現れた。

 インターネットカフェにあるような大きなリクライニングチェアだ。黒い革張りのような高級感、大きな背もたれに足置きも付いている。ひじ掛けのところにはタブレットも付いていて、買うとしたらそこそこのお値段がしそうな物だ。


 背もたれのない丸椅子とかがポツリと出てきたらどうしようと思っていたのだが、まぁまぁ良いのではないだろうか。


 とりあえず、椅子の座り心地は置いといて、先に残高確認だ。



『レベルアップおめでとうございます』


 へ!?


『レベルアップボーナス』


自動マッピング

椅子➡テーブル

ヨシオ音声

トイレ

 


 どういう事なの?え?

 ニードルビーを倒しまくっていて、レベルが上がりまくったって事なのだろうか?


 しばらく考え、時間をかけて状況を飲み込み、興奮と、恐ろしさで少し震える指先で画面をタッチする。


「ピン」

『カードを置いて下さい』


『登録が完了しました。カードのお取り忘れにご注意下さい』


 フッと大きな物が現れた。

 テーブルだ。

 トイレにしようかと悩んだが、矢印の先はいい物の法則に従ってこっちを選んだ。


 ガラス質の天板で、大きさは畳み4枚分ぐらいあってかなり大きい。テーブルの端には50cm×50cmの高さ30cmぐらいの白い箱が付いてる。

 8人いや10人ぐらいは座れそうだ。金属製の太い脚は無機質で、科捜研とかのテーブルとか近未来のテーブルって感じがする。

 なんだか一気に改札部屋が華やかになった感じだ。


 まぁまぁ、テーブルの感想は置いといて、今度こそ残高確認だ。レベルが2つも上がってるのだから、きっと残高も天元突破しているに違いない。



『レベルアップおめでとうございます』


 ふぁぁあああ。


『魔法解放ボーナス』

『スタートボタンを押して下さい』


 何か知らない言葉、いや知ってるけど知らない言葉があったのだが・・・。

 画面は「スタート」と書かれた文字があるだけで、相変わらず押さないと進まない一方通行の仕組みだ。


「ピン」

『スタート』


 色んな文字が目に見えない早さでシャフルされている。


『ストップボタンを押して下さい』

「ピン」

『テ・テ・テ・・・テテーーーン』


 シャフルされていた文字が止まった。「クイック」って書いてある。


『カードを置いて下さい』


 敬太は言われるがままに、操り人形のようになってススイカを置いた。

 画面が切り替わり待機時間のパワーゲージが出てきて「しばらくお待ちください」の文字が点滅している。

 ゲージが動き出すと、前にもあった挟まれるスポンジケーキの感覚が襲ってきた。

 されるがままに身を委ねていると、スポンジケーキの感覚がフッと消える。


『登録が完了しました。カードのお取り忘れにご注意ください』


 置いてあるススイカを手に取ると、魔法【クイック】の使い方を理解出たのが理解できた。


 何やら【クイック】とは時間魔法で、時間の流れの理を破り違う時間の流れに乗るらしい。要は一人だけ時間の進みが遅くなり早く動けるようになるみたいだ。


 なんだかよく分からないが兎に角凄いようだ。



『レベルアップおめでとうございます』


 も、もう・・・。


『ビッグボーナス』

『スタートボタンを押して下さい』


 何をしようと、押せる所ひとつだけ・・・。


「ピン」

『スタート』


 また、文字がシャフルされている。


『ストップボタンを押して下さい』

「ピン」

『テ・テ・テ・・・テテーーーン』


 止まった文字は「コンセント」となっている。

 急に知ってる単語だ。


『カードを置いて下さい』


『登録が完了しました。カードのお取り忘れにご注意下さい』



 ATMの画面を見ると、ようやくデフォルトの画面に戻っていたの、だが・・・。

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