第39話 決行

 まずは左手側の通路にコンパネ(畳ぐらいの大きさの木の板、合板)を合わせ、通路の大きさに鉛筆で線を引いていく。通路は綺麗に大きさが揃っている訳じゃなく手掘りの洞窟のような感じなので、コンパネを少し小さめにしておいて、通路を塞ぐ蓋を作るようなイメージでノコギリを動かし始めた。

 

 ノコギリもまた重労働だった。案外疲れる。

 普段使わない筋肉を酷使し「ふぅふぅ」と息を荒げながらノコギリを動かし続ける。


 なんとかコンパネを1枚切り終え、実際の通路と合わせてみてサイズに問題ないか確かめる。

 途中でつっかえないぐらいの大きさで、かと言って隙間が出来すぎずに小さすぎないサイズ。


 まぁこんなものだろう。


 切った大きさに問題が無いようなので、もう1枚も同じサイズに切る。


 ギコギコと、コンパネの下に角材を敷いて足で押さえつけながら切って行く。こういう地味な作業は体力を使うから大変だ。


 心を無にしてノコギリを動かしていく。



 やっとの思いで2枚目も切り終え、サイズを確認する。ちゃんと1枚目と同じように切れているので問題ないだろう。


 今度は角材をだいたい50cm~60cmの長さに1本切る。その切った長さに合わせて8本同じ長さで揃える。

 そしたらテーブルを作るようにコンパネに角材の脚をつける。バランス良く8本コンパネの淵にそって立て、角材を釘で打ち付ける。そうすると簡易テーブルが出来あがる。


 最後に簡易テーブルをひっくり返して脚の上にコンパネを被せて釘を打つ。これで自立する幅60cmぐらいの壁のような物が出来上がった。これを通路に置けば蓋のようになるだろう。


 一応角材を斜めに切って杭の様な物も作っておく。自立する蓋が押されても動かないように地面に固定しておく為の物だ。


 こんなものだろうか、作れるものは作り終わった。後は作戦を実行するだけだ。この作戦が上手くいけば、だいぶ前に進むことが出来るだろう。


 成功するか失敗するかは、神のみぞ知るのであった。




 時間を確認すると午前3時ちょい過ぎ。改札部屋の電気が消えた午前1時から作業をしていたので、なんだかんだで2時間ちょい。慣れない大工作業だったので思いのほか時間を食ってしまっていた様で、そろそろ改札部屋に置いてきているゴルが気になってくる頃合いだ。

 なんせ3~4時間おきに腹を空かせて鳴き出すのだから。



 速足で改札部屋まで戻り、ゆっくりと扉を開けて中の様子を伺うが、ゴルはまだ寝ていた様で、部屋は静まり返っていた。

 午前4時になってATMが復活するまでは、検証実験も出来ないので、少しゆっくりしようと思う。



 大きな装備だけ外し、お茶を飲み、ゴルの寝顔を眺めていると、あっという間に時間になった様で、パッとATMのパネルがつき、改札の緑の矢印が復活した。


「ミー」

「おはよう」


 それと一緒にゴルも目を覚ました様で、早速ご飯の催促をしてくる。

 敬太はカセットコンロでお湯を沸かし、ゴルのミルクを作って、人肌に冷めるのを待つ。


「ミーミー」

「まだ、熱いからもう少し待ってな」

 

 膝の上にのせているゴルが「早く頂戴」と騒ぎ出す。元気なもんだ。

 敬太は、水に浸して冷ましていた哺乳瓶を取り出し、手首に一滴ミルクを垂らし温度を確かめると、いい塩梅になっていたのでゴルの口元へと持っていった。



 ミルクを飲み終えたゴルは、胡坐をかいている敬太の足の中でゴロゴロ転がり遊んでいる。先程まで寝ていたので、眠くないらしい。


「ゴル、行くよ」

「ミー」


 このままゴルと遊んでいたい所だが、先程まで準備していた検証実験をやらなくてはならないので、ハードシェルバッグに入ってもらって、改札部屋を後にする。





「さて、やるか」


 再び十字路部屋へとやって来た敬太は、気合いを入れた。


 検証実験。何処までが敬太の報酬として扱われるのか?


 手順は頭の中で考えシミュレーションしてある。

 十字路部屋の左手側、蜂の巣部屋に繋がる通路の傍で、薪を組み着火剤で火をつける。ここで持って来た薪は全て使い切る感じで、余った角材なんかも投入して火を大きくする。


 十分に薪に火が回ったところで車のタイヤの出番となる。タイヤは4本あるが、何本使うかはやってみないと分からない。最低でも2本は使いたいところだ。


 燃え盛る薪を大きなゴミ取りトングで掴み、火が付いている状態でタイヤの内側に入れる。余った着火剤もそれぞれのタイヤに入れておく。


 4本のタイヤ全部に、燃やしていた薪を全部入れ終わった時には、辺りは黒い煙が充満しゴムの匂いが鼻を突く状態になっていた。


 急がないと煙に巻き込まれそうだ。


 握っていたトングを投げ捨て、既に火が付いた状態のタイヤを転がし蜂の巣部屋に続く通路に投げ込む。すると、タイヤは転がりながら内側に詰めた薪をまき散らして進んでいった。黒い煙を尾に引きながら、火が付いたタイヤが通路の先を照らしていく。


 2本目のタイヤも転がし、3本目に手をかけようとするとニードルビーの羽音が聞こえてきた。「ブーン」と通路内で反響していて凄い数の音だと分かる。


 敬太は逃がしてなるものかと、急いで3本目のタイヤも転がし通路に入れていった。

 4本目のタイヤを見ると、手が付けられないぐらいに火をあげてしまっていたので、瞬時に諦めコンパネで作った自立する蓋を通路に押し込む。


 この時にはもう何十匹ものニードルビーが通路から部屋に溢れ出してきていて、敬太に纏わりついている。

 まだ通路内にいたニードルビー達は、通路を出ようと押し込んだコンパネの蓋にぶつかり激しい抵抗を見せている。


 羽音と激突音が激しく響く中、敬太も負けじとコンパネの蓋を体全体を使って通路に押し込む。その間、外に出ていたニードルビーからは体当たりとかの攻撃をされているが、それに構っている余裕はない。


 自立するコンパネの蓋を、ある程度通路の中に押し込めたので、ニードルビーの突撃で少しずつ動いてしまう蓋に、角材で作った杭を3本程ハンマーで打ち込んで蓋が押し返されないように地面に固定した。


 後は逃げるだけだ。中に入れそびれた4本目のタイヤが轟轟と火をあげ黒い煙をまき散らし、十字路部屋の中は煙が充満してきてしまっている。急がないと危ない。


 何匹ものニードルビーに纏わりつかれながら、モトクロスのヘルメットの口元の隙間を、袖で覆いなんとか息をして階段まで走る。

 走っている途中に煙にやられたのかニードルビーが地面にひっくり返っているのを見かけたが、敬太もひっくり返ってしまいそうなので無視して走った。


 階段を駆け下り体育館ぐらいの大きさの部屋まで来ると煙は無くほっと胸を撫で下ろし、大きく深呼吸して新鮮な空気を体に取り入れる。


 危うく煙に巻き込まれるところだった。


 これはもう少し方法を考える必要があるなと反省し、しつこく追ってくるニードルビーを追い払いながら改札部屋に戻っていった。

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