第26話 ポーション集め
ここ何日かは、スキル検証で得た回数が本当に合っているのかを確認する為に、連日ダンジョンに通っていた。
スキルは1日に7回はちゃんと使えるのか?
8回目は症状が出てしまうのか?
この辺りの事を突き詰められたと思う。
もちろん、平日なので夜勤の仕事も普通にある。なので、仕事を終えてからダンジョンに通うと言う二重生活になってしまっていたのだが、その分稼ぎも増えたので、気持ち的には充実していた。
先日、サラ金に返済して手元のお金を使い切ってしまっていたのに、今はもう66万円もウエストポーチに入っているのだから、忙しくしていた甲斐はあっただろう。
仕事が休みの日。
もちろん、今日もダンジョンに向かう予定だ。
いつもより少し、ゆっくりしながら父親の世話をして、身支度を整えると、足取り軽く家を出た。
いつものスーパーに寄り半額弁当とお茶3本。自炊で弁当を作るより安く上がるので毎日のように買っている物だ。レジのおばちゃんの顔も覚えてるし、常連と呼んでもらっても差し支えない程、毎日お世話になっている。
自転車を停め、駅構内を歩き、いつもの改札へ。
「ピピッ」
ススイカ(改)をかざすと電子音が鳴り、改札部屋へと到着した。
「ピッ」
ロッカーを開けて、着替えを始める。
オレンジ色のチェンソー用の防護服にモトクロスバイクのヘルメット。
各部に付けているライトを点灯したら扉を開けて外に出る。
さて、今日は休みなので時間がある。なので、前々から考えていたポーション関係の検証も進めたいと思っている。
ポーションを飲めばスキルを使いすぎた時の症状を治める事が出来るのか?
ポーションを飲めば筋肉痛も治るのか?
ポーションを飲めば元気が出るのか?
他にも知りたい事はあるが、まずはこの辺を検証しておきたい。
その為には、検証用のポーションを準備しないといけない。
結局、またもやポーション集めをしないといけないって事だった。
今までニードルビーやピルバグはたくさん倒しているのだが、未だにこの2種からはお金以外を落としたことが無いので、多分ポーションを手に入れるにはブレイドラビットを狩らなければならないのだろう。
この考えは、おそらく間違っていないと思う。なんせ今まで手に入れたポーションは、全部ブレイドラビットが落としているのだから。
ブレイドラビットは動物なので、未だに殺すのに抵抗があるし、奥の部屋に群れで固まっているのもよろしくない。だが、それらを考慮した上でも、今必要な検証だと考えている。
改札部屋を出て、左手側の壁沿いに進み、天井がアーチ型のトンネルまでやって来た。ハンディライトでトンネルの中を照らしてみると、さっそくブレイドラビットが1匹、目に入る。中型犬ぐらいの大きさのウサギは、鼻をヒクヒクさせてこちらの様子を伺っていた。
やはり対峙すると殺りにくい。愛くるしい顔つきで敬太を見つめてくるモフモフ・・・。やめろ、そんなつぶらな瞳で見つめるな。敬太は、犬猫問わず動物大好き人間なのだ。
もはや戦う前から精神力が削らてしまっているが、初めて対峙した時に比べれば随分と余裕が出来てきた気がする。その証拠に、動き出したブレイドラビットに、木刀「赤樫 小次郎」の一太刀を躊躇う事無く振り下ろす事が出来ているのだから。
倒れたブレイドラビットは煙に包まれ一万円札を落として消えていった。
だが、ポーションは落とさなかった。
お金を拾い、トンネルを先に進むと部屋に出る。
正面には壁があり、左と右にトンネルがある分岐の部屋だ。広さはバスケットコートぐらいなので十分に部屋の中に明かりが届き、全体を見渡す事が出来る。
ハンディライトも使い、部屋の中を確認すると、部屋には3匹のブレイドラビットがいた。
すぐに、背中から普通の木刀「赤樫 小次郎」を抜き構える。大丈夫だと自分に言い聞かせながら、ブレイドラビットに向かって近づいていく。
ピクリとブレイドラビットが反応して一気に距離を詰めてきたが、敬太は落ち着き、動きを合わせてカウンター気味に木刀を叩きこんだ。すると、ゴッという鈍い音を残しブレイドラビットは地面に倒れ込んだ。
ここで気を抜いてはならない、何故ならブレイドラビットは連携してくるからだ。すぐに他に目を向けると1匹は横に回り込み、もう1匹は既に足元に突っ込んで来ていた。やっぱり油断ならない。
振り抜いてしまった木刀の返しが間に合わず、膝の辺りに噛みつかれてしまう。圧迫するようなチカラが膝の辺りに加わるが、それ程の痛みは無い。
噛みつかれている状態で強引に木刀を振り、膝に喰らいついているウサギの腹を叩く。すると、ウサギは噛みついていたのを放し「キー!」と声を上げた。
痛いよな・・・分かっている。しかし、ここで怯んではいけない。跳ね上げた木刀を強く握り、体重を乗せもう一度振り下ろす。一瞬ウサギは木刀を避ける様に動いたが、間に合わず地面に倒れていった。
さて、残る1匹はというと敬太の後ろまで回り込み、突っ込んできていた。
中型犬ぐらいの大きさがあるウサギの引っかき体当たりアタックは、なかなか強烈でドスンという重さがある。
敬太は後ろからの衝撃につんのめり、倒れそうになったが、なんとか踏ん張り、振り返と、後ろにはアタックをして来たウサギが着地していた。
(悪くない位置だ)
足を一歩踏み出し、後ろに振り向く捻りを利用して野球のスイングの様に木刀を振り回す。
木刀は鋭い軌道でウサギの鼻っ柱に吸い込まれていき、カコッと硬い音を響かせると、すぐにウサギは煙に変わっていった。
「ふぅ~」
ひとつ息を吐き、もう一度部屋の中をぐるりとライトで照らすが、他にウサギは見当たらなかった。
木刀を背中にしまい、噛みつかれた膝を見たが、チェンソー用の防護ズボンには穴や傷は無く、中々の防御力を示していた。これならば大丈夫だろう。
それから落としたお金を回収したが、肝心のポーションは、また落ちていなかった。
前回、ブレイドラビットを一気に33匹倒した時はポーションを3個拾う事が出来ていたので、落とす確率は十分の一ぐらいなのかもしれない。
入って来たトンネルを背に右側のトンネルの先には、数多くのブレイドラビットがひしめいていて、白い絨毯の様になっている部屋がある。近づくのは危険だろう。
逆の左側のトンネルは、まだ行ったことがないので、ここは迷わず左側のトンネルに進むとしよう。
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